剪定鋸ケース MedSaw|木製からプラスチックへ変えて見えた弱点

ハンドメイド革鋸ケースと柄の革グリップ

2019年につくった剪定鋸ケース、MedSaw。名前の「Med」はMediumの略です。

当時のわたしは、Classic SN/nのように、形や用途をそのままアルファベットで表すような名前を割と機械的につけていました。

小型鋸のPockesawに対して、こちらは普段仕事で使う普通サイズの剪定鋸。さらに長い鋸になると300~400mmほどになるので、その中間という意味でMedSawです。

見た目だけなら、先につくったPockesawをそのまま大きくしたようにも見えます。実際、それも間違いではありません。

でも、MedSawをつくった理由はそれだけではありませんでした。

Pockesawを使ったら、今まで気にならなかったものが気になった

MedSawをつくる一年ほど前に、小型鋸Pockesawをつくっていました。

MedSawとPockesawの比較
上がMedSaw
下がPockesaw

並べて見ると、形はかなり似ています。

違うのはサイズです。Pockesawは小型鋸。MedSawは普通サイズの剪定鋸です。

Pockesawを一年ほど仕事で使ってみると、思っていた以上に気に入りました。すると困ったことに、それまで普通に使っていたものが、だんだん気になり始めます。

一つは鋸の柄でした。

ALSウッディ25の柄

革でカスタムしていくと、普通は気にならないところが気になってきます。木製の柄そのものは、まあいいとして、気になったのは、替え刃を固定しているネジの部分です。

「ここは最低でも艶消しのネジを使ってくれ」と病気じみた感想を漏らすわたしです。

こんなことはPockesawのグリップを革で包むまでは、それほど気にしたこともありませんでした。ところがPockesawと一緒に使うようになると、この無機質なネジが妙に目につく。

何というか、急に味わいがないものに見えてきたんですよね。

だったら、こちらも革で仕立ててしまえばいいではないですか。

MedSawの革製グリップは、まだ初期型です。現在のような一枚革ではなく、別々の二枚の革を途中で縫い合わせていました。

この革製鋸グリップがその後どう変わっていったのかは、「革製鋸グリップLEZAGRI」の記事で詳しく書いています。

もう一つ試したかったのが、木からプラスチックへの変更

MedSawをつくった理由は、見た目だけではありません。それまで普通サイズの鋸は、Classic SN/nを使っていました。

Classic SN/nは、市販の木製鋸ケースを革で包んだものです。

木製ケースをそのまま使うよりずっと丈夫になりましたが、長く使えば中の木そのものは少しずつ削れていきます。

だったら、中を木ではなくプラスチックにすれば、もっと長持ちするんじゃないか。

そう考えました。

MedSawの中には、市販のプラスチック製鋸ケースが入っています。ただし、そのまま革をかぶせたわけではありません。

元のプラスチックケースは上部が少し膨らんだ形になっていて、そのままでは革をきれいにかぶせにくかったため、上から7cmほどを切り落としました。

ハンドメイド革鋸ケースと柄の革グリップ

こうして、プラスチックの鞘を革で仕立て、柄にも革をまとわせました。

剪定鋸でここまで味わい深いのは、今まで見たことがなかったので、完成したときは、それなりによくできたと思いました。

実はMedSawにはもう一つ、仕事で使うためにつけた仕組みがあります。

ベルトループと本体をジャンパーホックでつなぎ、鋸だけ簡単に腰から外せるようにしました。

小型鋸は一日中腰につけていてもそれほど邪魔になりませんが、このサイズの鋸は掃除などでは外したくなることがあります。

そんな時に腰道具をつけたまま、この鋸だけを外せるようにしたというわけです。

プラスチックなら長持ちすると思った

MedSawは、その後2年くらい仕事で使ったと思います。そして、使っているうちに少しずつ問題が出てきました。

最初に傷んだのは、中に入れたプラスチックケースです。木より丈夫だろうと思っていたのですが、期待したほどではありませんでした。

鋸を出し入れすると、わたしの使い方では刃が鞘の側壁へ当たります。それを何度も繰り返せば、少しずつ削れていく。

しかもMedSawでは、革をかぶせるために、もともと少し肉厚だったプラスチックケース上部を切り落としています。その下の比較的薄い部分を使っていたことも、傷みが早かった理由の一つだと思います。

やがてClassic SN/nのときと同じように、側壁が削れ、最後には外側を覆っている革まで鋸刃が達して切れてしまいました。

ちなみに、その前にジャンパーホックも一つ、また一つと外れていき、結局全部が取れて、ベルトからするっと落ちるような始末です。

しょうがないので最後は、ベルトループの首元をギューっとシュロ縄で絞ってとめるという、なんともアクロバティックな様相を呈しておりました(笑)

ベルトに使っていた革は厚く、それに合うだけの足の長さがあるジャンパーホックがなかなかありませんでした。足が短く、しっかり固定できていなかったんですね。

傷んだ順番でいえば、プラスチック、ジャンパーホック、外側の革、グリップ。今はMedSawそのものも手元に残っていません。

MedSawのその後について旧記事には書いていませんでしたが、ここで告白しておきます。

鋸ケースの側壁は削れるものとして考える

MedSawから得たものが何もなかったかというと、そんなことはありません。それまでと、一つ考え方が変わりました。

鋸ケースの側壁は、削れないようにつくるのではなく、削れるものとして考えなければならない。

木だから削れた。ならプラスチックなら大丈夫だろう。

そう思ってつくったMedSawでしたが、結局プラスチックも削れました。

もちろん、使い方によって傷み方は違うと思います。

ただ、少なくともわたしの使い方では、鋸刃が側壁へ当たり続ける以上、材料が何であっても摩耗していきます。

では、絶対に削れないほど硬い材料を使えばいいのか。

それも違います。

もし鋸刃より硬いものへ何度も刃を当てることになれば、今度はケースではなく鋸の方を傷めることになります。

だったら、ケース側が少しずつ削れていくこと自体は、織り込み済みで考えなければならない。削れることを前提にして、そのうえでどう長く使えるようにつくるか。

MedSawは、そのことに気づかせてくれた鋸ケースでした。

自分用の便利さを、そのまま他人用にはしない

MedSawと同じ構造は、その後、知り合いの植木屋さんの鋸ケースにも使いました。

以前つくった革ケースセットが仕事で使い込まれ、最後にはエライことになった知り合いです。

そのときの話は、「あの革ケースセットがズタボロに……それを目にしてわたしが考えたこと」で書いています。

傷んだ鋸ケースはもう再起不能だったため、新しくつくり直しました。

中に入れたプラスチックケースも、ケース本体の二重縫いもMedSawと同じです。

違うのは糸の色と、ベルトループの付け方です。

ハンドメイド革鋸ケース

自分用のMedSawでは、必要なときに鋸を腰から外せるようジャンパーホックを使いました。でも、他の人が同じように取り外して使うかどうかは分かりません。

それなら、わざわざ壊れやすくなる仕組みを入れる必要はない。このケースでは、ベルトループを本体へ完全に縫い付けました。

自分に便利なものが、そのまま他の人にも必要とは限りませんので。

今MedSawと同じものをつくるか?

完成した当時、MedSawはかなりよくできたと思っていました。

でも今、自分用に普通サイズの剪定鋸ケースをつくるなら、この構造にはしません。中に木やプラスチックの芯を入れず、純革でつくります。

でも、2019年にMedSawをつくった時点では、鋸の鞘そのものを革だけで成立させるという可能性が、まだ自分の中では見えていませんでした。

だからMedSawのあとも、すぐに純革へ移ったわけではありません。

次につくったTOSA-KM240、その次のTOSA-KM300でも、木製ケースやプラスチックケースを芯にするという考え方は残っています。

今振り返れば、MedSawは途中の形です。

木製ケースを革で包んだClassic SN/nから、プラスチックを使ったMedSawへ。そして、その先でようやく「そもそも芯は必要なのか」と考えるようになっていきます。

今ならつくらない。

でも、つくらなければ分からなかったことがあります。

鋸ケースは当然削れる。

それなら、削れないことを目指すのではなく、削れることまで含めてつくればいい。

MedSawを2年ほど仕事で使ったことで得た一番大きなものは、完成したケースそのものではなく、この考え方だったのかもしれません。

MedSawのあとも、しばらくは芯を使った鋸ケースをつくり続けました。その次につくった一本が、譲り受けた土佐片盛240のためのケースです。

木製ケースを革で包んだClassic SN/nから、プラスチックを使ったMedSaw、さらに純革製へ。これまで鋸ケースの素材や構造を変えてきた流れは、「鋸と革ケース」でまとめています。