純革製剪定鋸ケースMORIBITO|WoodyWaveとは逆の発想から生まれた堅牢な鞘

純革鋸ケース高耐久モデル

一般的な250㎜クラスの剪定鋸が入る純革製の鋸ケースとして、以前WoodyWaveを製作しました。

WoodyWaveは必要最低限までスリムにまとめた鋸ケースで、軽く、腰回りにつけて仕事をする道具として考えれば、その軽快さは大きな利点です。

ただ、完成したWoodyWaveを見ているうちに、普通サイズの剪定鋸を入れる鞘としては、ちょっとだけ華奢なようにも感じました。

それなら今度は逆に振り切ってみよう。

正確な時期は覚えていませんが、WoodyWaveをつくってから、たぶん1か月後くらいには完成していたと思います。そうしてつくったのが、厚いヌメ革を重ね、堅牢さと革そのものの存在感を前面に出した今回の鋸ケースMORIBITOです。

WoodyWaveとは正反対の鋸ケースをつくりたくなった

MORIBITOの前につくったのが、剪定鋸ケースWoodyWaveです。

WoodyWaveはアルスのウッディを入れるためにつくった純革製の鋸ケースで、WiredSawの鞘と同じように、できるだけ無駄を省いたスリムな見た目と構造にしています。

もちろん、しっかりとした厚みの革を使っていますので、華奢に見えるからといって、すぐに駄目になるようなものではありません。それに腰へ常につけておく道具なら、軽くて小さい方がありがたいに決まっています。

WoodyWaveはWoodyWaveで、そちらの方向へ振り切った鋸ケースなのです。

だからこそ、その直後に今度はまったく反対のものもつくってみたくなりました。

スリム、軽快、必要最低限ではなく、厚く、重く、堅牢。革を使っていることが見た目からも分かるような、存在感のある鋸ケースです。

この重厚さは、前につくった総革製の鉈ケースKolashoにも、どこか通じるものがあると思います。

木、プラスチック、そして純革へ

そもそも、なぜ純革製の鋸ケースをつくるようになったのか。

わたしが最初につくった革の鋸ケースClassic SN/nは、市販の木製鋸ケースをヌメ革で包んだものでした。

木製ケースは濡れたり、仕事中に鋸の柄を枝へ引っ掛けたりすると割れてしまうことがあります。外側を革で包むことで、その弱点はかなり解消できました。この構造は気に入って、同じようなものを5年以上は使っていたと思います。

ただ、割れなくなったからといって、いつまでも使えるわけではありません。

長期間の使用で側面が削れた鋸ケース

上の画像は、実際にわたしが仕事で使い込んだClassic SN/nです。鋸を出し入れするたびに刃が鞘の側面へ当たり、中の木が少しずつ削られ、最後にはその外側を覆っていた革まで切れてしまいました。

中の木製ケースだけ新品に交換すれば、外側の革が切れることはないのですが、それを怠った結果です(笑)

わたしの使い方では、だいたい2~3年も使うとこのような状態になります。

ただし、これは誰でも同じではありません。他の植木屋の鋸ケースを見ると、それほど摩耗していない人もいます。鋸を使う頻度も、鞘への戻し方も人それぞれですので、傷み方にもかなり差があるのでしょう。

そこで今度は、「木が削れるなら、中をプラスチックにしたらどうだろう」と考えてつくったのがMedSawでした。

ところが使ってみると、プラスチックも思っていたより早く削れました。

MedSawでは、もともとのプラスチックケースを革で包みやすくするために上部をカットしており、少し薄い部分を使っていたことも関係していると思います。それでも、木だろうがプラスチックだろうが、鋸刃が繰り返し当たり続ければ、いつかは削れていきます。

だったら革はどうなのか。

最初に試したのが、小型鋸WiredSawの純革製の鞘でした。WiredSawは作業中に鋸を何度も鞘へ戻す使い方をしないため、「出し入れの頻度が少ないなら純革でもいけるのではないか」と考えてつくったものです。

実際に使ってみると、革だから極端に早く削れてしまうということもなく、木と比べても遜色ないくらいの耐久性があると感じました。

それなら普通サイズの剪定鋸でも純革でいけるのではないか。

そうしてつくったのがWoodyWaveで、さらにその反対方向へ振り切ったものがMORIBITOという流れになります。

側壁をできるだけ厚く取ったMORIBITO

純革製剪定鋸ケースMORIBITOの前面

MORIBITOを考えるうえで、まず決めたのが鋸刃の両側にある側壁です。

鋸の出し入れによって削れていくこと自体は避けられない。それなら、削られる部分そのものをできるだけ厚く取ってしまえばいい。

MORIBITOでは、鋸刃の両側にそれぞれ20㎜ほどの側壁を設け、鋸刃が入る部分は45㎜ほど確保しました。

この20㎜という数字は、過去のケースを見て「何㎜あれば何年持つ」と計算したものではありません。鋸ケースは腰から下げて使うものですから、横幅がありすぎても邪魔になります。実用上許容できる鞘全体の幅から逆算して、その中で可能な限り側壁を厚く取った結果です。

これだけあれば、木製ケースの側面が薄くなって外側の革まで達してしまったClassic SN/nのような状態になるまでには、かなり削らなければならないはずです。

ただし、MORIBITOそのものを長期間仕事で使って耐久性を確認したわけではありません。この点は、構造から考えればかなり長く持つだろう、という製作時の考えです。

鞘の前面上部にある半円形の切り欠きも、MORIBITOで初めて取り入れたものです。市販の木製鋸ケースでは見かける形ですが、わたしがつくった純革製の鞘では初めてでした。

鋸をしまう時、狭い鞘の口へいきなり刃先を差し込むより、前面が少し低くなっていた方が入り口を捉えやすくなります。大きな違いではありませんが、実際に出し入れしてみても、こちらの方が少し使いやすく感じます。

一番難しかったのは構造ではなくデザイン

MORIBITOをつくるうえで、あとから振り返って一番難しかったと思うのは、革を重ねて縫うことではなく、実はデザインでした。

MORIBITOの全体シルエット

鋸の形に沿って素直に長方形にすれば、WoodyWaveとほとんど同じシルエットになります。

しかもMORIBITOは側壁を幅広く取っています。そのまま長方形にすると、幅広で分厚い長方形の鞘となり、見た目まで重くなりすぎるように感じました。

そこで、途中を一度くびれさせ、その下をもう一度膨らませる形にしました。こうすることで、もったりした印象を避けられると考えました。

MORIBITOの時は、図面とにらめっこしながらシルエットの線を何度も引き直しました。散々迷って、最終的に決めたのがこの形です。

しかし完成してみると、わたし自身はこの「くびれて、また膨らむ」というシルエットがあまり好きになれませんでした。

厚みや重厚感は狙った通りです。構造的にも、おおよそ考えていたものになりました。それでもデザインだけは、ちょっと失敗だったかなと思っています。

もしMORIBITOの構造をそのままに、シルエットだけ今つくり直すなら、変に形をつけず、下へ向かって細くなる逆三角形のような形にすると思います。

3.5㎜のヌメ革を4枚重ねた約15㎜の厚み

約15㎜あるMORIBITOの革の厚み

MORIBITOには、コシのある約3.5㎜厚のヌメ革を使っています。

画像で見えているコバの部分は、革が4枚重なって約15㎜ほどあります。

鞘の背面は3.5㎜ほどの革を2枚貼り合わせています。外から見える裏側はもちろん銀面ですが、鋸が入る鞘の内側にも銀面が見えるように、2枚の革をトコ面同士で接着しました。

これは前面上部に半円形の切り欠きを入れたことで、その奥にある背面の革が見えるためでもあります。

その背面2枚の上に、左右それぞれ別々の側壁パーツを置き、最後に表面の革を重ねています。

左右の側壁を別々のパーツにしているのは、上部には鋸の挿入口が必要で、下部には鞘の中へ落ちた切粉を排出するためのごみ抜き穴を開けておきたいからです。

こうして必要な構造を積み重ねていった結果、4枚で約15㎜という厚みになりました。

MORIBITOの背面構造

裏側から見るとこのような形です。背面側も銀面が表になるようにつくっています。

15㎜もの革をまとめて縫うとなれば、一般的にはなかなか大変な作業だと思います。プロの革職人さんがこの厚みをどう評価するのかは分かりませんが、普通の革製品では、そもそもここまで厚くする必要があまりないでしょう。

ただ、わたし自身はStrapSawやTwigSawなどでも、かなり厚い革を重ねて縫っていますので、このくらいになると「いつものこと」という感じでもあります。

革は木やプラスチックのように割れるものではありません。その一方で、木やプラスチックほど硬い素材でもなく、水に濡らした状態などでは反りや歪みが出る可能性があります。

MORIBITOの場合は、これだけ厚みがありますので、その点でもかなりしっかりした鞘になっています。

その代わり、当然ながら重いです。重量は測っていませんが、使っている革の量から考えると、WoodyWaveの2~3倍くらいあってもおかしくないと思います。

軽さを取るならWoodyWave。革をたっぷり使った重厚さを取るならMORIBITO。まさに正反対です。

250㎜クラスのストレート刃ならほぼ入るサイズ

別の剪定鋸を収納したMORIBITO

こちらは、冒頭画像とは別の鋸を入れたところです。

MORIBITOの鞘部分は長さが約265㎜あります。幅にも少し余裕を持たせていますので、一般的な250㎜くらいのストレート刃の剪定鋸であれば、恐らくほとんど入ると思います。

実際にたくさんのメーカー、種類の鋸を入れて確認したわけではありませんので、「すべて入る」とまでは言い切れません。ただ、剪定鋸の刃幅にはそれほど極端な違いはなく、この鞘に入らないほど幅広なストレート刃は、実用上あまり考えにくいと思います。

ただし、カーブソーは別です。MORIBITOはストレート刃を前提にした形なので、湾曲した刃を入れるための鞘ではありません。

MORIBITOという名前の由来

MORIBITOという名前は、そのまま「森人」「森で働く人」というイメージから付けました。

名前を考えている時に思い浮かんだのが、『ゼルダの伝説』に登場する「森人の剣」です。

森や木に関わる仕事で使う道具ですし、厚い革をまとった少し武骨な雰囲気にも合っているように感じて、MORIBITOとしました。

完成したMORIBITOをわたしは使っていない

ここまで構造や耐久性についていろいろ書いてきましたが、実はこのMORIBITO、わたし自身は仕事では使っていません。

完成した時、厚みや重厚感については思っていた通りにできたと感じました。

ただ、先ほど書いたように、どうしてもシルエットが気に入らなかった。

だからといって手元に置いておきたくないほど嫌だったわけでもないのですが、その後ニョンパさんのためにTwigSawなどをつくった際、頼まれていた飛庄・外山刃物用の剪定鋏ケースなどと一緒に箱へ入れて、おまけとしてMORIBITOも送りました。

たぶんニョンパさんも、まだ使っていないと思います。

そんなわけで、このMORIBITOについて「何年使ってもここまでしか減らなかった」といった実使用による耐久性の話はできません。

20㎜取った側壁も、15㎜ほどある本体の厚みも、耐久性を高める方向へ働くことは間違いないと思います。ただ、実際に長期間使って確認した結果ではないということは、ここでは分けておきたいところです。

今MORIBITOをつくり直すなら

今あらためてMORIBITOを見ると、構造については大きく変える必要はないと思っています。

鋸刃が当たる側壁をしっかり取ること。厚いヌメ革を重ねて鞘全体に剛性を持たせること。鋸を入れやすいように前面へ切り欠きをつくること。底には切粉を落とすための穴を残すこと。

このあたりは今つくるとしても、基本的には同じような構造になると思います。

変えるとすれば、やっぱりデザインです。

WoodyWaveと違う形にしなければ、と少し考えすぎたのかもしれません。今なら妙にくびれさせたりせず、もっと素直でシンプルな逆三角形のシルエットにするでしょう。

MORIBITOは、つくってみて全部が気に入った鋸ケースではありませんでした。

それでも、木を革で包んだClassic SN/nから、プラスチックを使ったMedSaw、純革製を試したWiredSaw、普通サイズへ広げたWoodyWaveと続いてきた中で、「では純革製の鋸ケースを堅牢さの方へ思い切り振ったらどうなるのか」を実際に形にしたものではあります。

つくってみたからこそ、構造はこれでいい、でも形はこうじゃない、ということも分かりました。

困ったもので、一つできると、また次に試したいことが出てきます。

実は次につくってみたい鋸ケースもすでにあるのですが、その話はまだここではやめておきましょう。

MORIBITO以外の鋸ケースも含め、これまでにつくってきた鋸ケースの流れは、「鋸と革ケース」でまとめています。