2019年の春、当時わたしが仕事で使っていた革ケースを並べて写真に撮りました。
木鋏、剪定鋏、普通サイズの剪定鋸、それから小型鋸。全部で4点です。
これを「剪定革ケースセット2019」と呼んでいますが、最初から4つをセットでつくったわけではありません。
2017年頃から2019年にかけて、必要になったものや、思いついたものを一つずつつくっていった結果、2019年の時点で使わずにあったものを集めたのがこのセットです。
改めて並べてみると、不思議と一つのセットとして収まっています。
同じような時期につくっていますので、意識していなくても、同じような考え方や好みが自然に出ていたのでしょうね。たぶん。
2019年に使っていた4つの革ケース

このとき並べたのは次の4点です。
・木鋏ケース DRstitch/k
・剪定鋏ケース DR Felco stitch
・剪定鋸ケース MedSaw
・小型鋸ケース Pockesaw
2015年につくった革ケースセットは、知り合いの植木屋さんから「この3点をセットでつくってほしい」と頼まれて、最初から一組としてつくったものでした。
それに対して2019ver.は、わたし自身が使うために一つずつつくったものです。
当時の記事では「試作品」と書いていました。
それまでの革ケースでは、何度か試しにつくって失敗し、そのあと完成したものをブログへ載せることも多かったのですが、この4つは最初につくったものをそのまま仕事で使いました。
そういう意味では確かに実験的です。
でも、実際に腰へ下げて仕事をしている以上、「試作品」と言ってしまうと少し違う。
実験的なことを試しながら、そのまま実用品になった革ケース。
今ならそんな言い方の方が近い気がします。
革ケースづくりは、一度かなり停滞していました
わたしが革ケースをつくり始めたのは2013年頃です。
最初の頃はいろいろつくっていましたが、2014年頃から2017年頃までは、新しい革ケースをあまりつくっていません。
別にレザークラフトに飽きたわけではありません。
そもそも、わたしはレザークラフトがやりたくて、
「じゃあ、ついでに鋏ケースでもつくるか」
と始めたわけではないんです。
逆です。
仕事で使っていた腰道具に不満があったから、それをどうにかしたくてレザークラフトを始めました。
木鋏ケース、剪定鋏ケース、鋸ケース。
気になっていたところを一通り自分なりに直し終えると、とりあえず不満はなくなります。不満がないなら、新しくつくる必要もありません。
しかもレザークラフトというのは、始めようと思うと案外面倒です。
革を出して、道具を出して、作業場所を確保して……。
専用の工房でもあれば別ですが、わたしの場合はまず、この「道具を広げる」というところに精神的ハードルがあります。やればやったで部屋は汚れますしね。
そこを乗り越えてまでつくりたいものがなければ、当然なかなか腰は上がりません。
製作熱というのも人生と同じ。
山あり谷あり沼地あり。
平坦ではないです。
その停滞を破ったのがPockesawだった
そんな時期に、仕事で小さな鋸を試してみました。これが思っていた以上に使いやすかった。
だったら、この鋸にも自分用のケースをつくってみよう。
必要に駆られて久しぶりにつくったのがPockesawです。
Pockesawでは、今まであまりやっていなかったことをいくつか試しました。
鋸ケースの側面を閉じる縫い目を、横方向へ二本走らせる。しかも、その二本に違う色の糸を使う。
レザークラフトでは二色の糸を使うやり方を見かけることがありますので、一度やってみたかったんです。さらに、この小型鋸では柄そのものにも革を仕立てる必要が出てきました。
これもやってみたら、うまくいった。
革ケースと革グリップを合わせて見たとき、それまでの自分の鋸とはまったく違う雰囲気になりました。
「こういうのもありなのか」
と、革ケースでできることの幅が急に広がったように感じたのだと思います。
しばらく静かだったところへ、Pockesawが一発入ってきた。
今振り返ると、こいつが起爆剤でした。
気に入ったら、今度は別の道具でもやってみる
Pockesawがうまくいくと、今度は普通サイズの鋸でも同じようなことをやりたくなります。
そうしてつくったのがMedSawです。
Pockesawと同じように革製グリップをつけ、鋸ケースの縫い方や糸の雰囲気もそろえました。
PockesawとMedSawがお揃いの一組。
同じことは鋏ケースでも起きました。
木鋏ケースDRstitch/kで、革の縁へステッチを入れてみたところ、この雰囲気がなかなか気に入りました。だったら剪定鋏ケースにも入れて、お揃いにしてみよう。
そうしてできたのがDR Felco stitchです。
DRstitch/kとDR Felco stitchでもう一組。
つまり2019ver.は、最初から4点を一つにそろえたのではなく、気に入ったことを別の道具でも試した結果、偶然「お揃い二組」ができていたというわけです。
さらに、その二組を一緒に並べても不思議とそれほど違和感がありませんでした。
つくった時期が近ければ、意識しなくても、その時の好みというものは勝手に染み出すものなのでしょう。
シンプルビューティーから、だいぶアクが強くなりました

革ケースづくりを始めた頃のわたしは、とにかく形そのものの美しさで見せたいという意識が強かったと思います。
装飾はできるだけ少なく。
かなり硬派です。
ところがPockesawで二色の糸を使い、横縫いの面白さを知り、さらに鋏ケースにもステッチを入れ始める。
シンプル一辺倒だった好みが少し変わり、同じものをつくるのにも飽きてきて、だんだん遊びが増えていきました。

見比べてみると、最初はシンプルビューティーだったのに、何年かすると、ずいぶんアクが強くなった様子が一目瞭然です(笑)
当時のわたし自身も、ちょっとやり過ぎた感じはしていました。実際には、この4点を全部同時につけて仕事をしていたわけではありません。
撮影のために、せっかくだから派手なものを全部集めて並べたという部分もあります。普段は、同じ時期につくったもう少し大人しいものと組み合わせて使っていました。

とはいえ、撮影のために全部腰につけてみると、なかなか大そうなことになっておりますな。
こんな状態で剪定作業をして、何らかの効能でもあればいいんですけどね。
これによって本業の依頼が増えるようなことはまったくありません(笑)
完全に自己満足の世界です。
自分の後ろ姿って、自分では見られないじゃないですか。
こうやって客観的に見ると、
「なんか、すごい大袈裟な奴が来ちゃったな」
という空気になりそうで、ちょっと怖いです。
まあ実際には、仕事で使っていればすぐに汚れます。
革の色も落ち着き、風景に溶け込んで、そのうち存在感もかなり薄くなります。
それに、今ならこの配色を選ぶことも、この4点を全部同時に合わせることもないと思います。
ちょっとくどい。
でも、ステッチそのものは今見ても悪くありません。糸の色をもう少し大人しくすれば、今の自分の好みにも十分入ります。
一度振り切ってみないと、どこまでが自分の好みなのか分からない。
そういう意味でも、この頃のやり過ぎには意味があったのではないかと。
2019ver.の4点は、その後それぞれ別の道へ
こうして写真ではきれいに4点並んでいますが、このセットがそのまま長く続いたわけではありません。
使わなくなった順番は、たしか、
DR Felco stitch → DRstitch/k → Pockesaw → MedSaw
だったと思います。
最初の二つ、DR Felco stitchとDRstitch/kには、このとき使った革そのものに少し問題がありました。
ここからは一般の人には、かなりどうでもいい話かもしれません(笑)
普段わたしが使っていたのはピットヌメという革でしたが、この二つにはドラムヌメを使っていました。
なめし方が違い、このとき買った革には思っていたほどコシがありませんでした。
買った時にはそこまで分かっていなかったんですよね。
DR Felco stitchは、そのまま仕事で使い続けて使いつぶしました。
戦死です。
対してDRstitch/kは、まだ使えるうちに仕事用から外しました。
鋏は仕事用以外にも何本かありますので、その保管ケースとして今も残っています。
こちらは戦死ではありません。
勇退です。
木鋏そのものは、その後も2025年まで使いました。
DRstitch/kを外したあとは、手元に残っていたDiagonal R/kを再び使っています。
Pockesawは壊れたわけではありません。
使い続ける中で別の問題が見え、その続きを考えてつくったWiredSawへ交代しました。
そして最後まで残ったMedSawは、使えなくなるところまで使い倒しました。
4つ並べた2019年の写真は一瞬ですが、その後を追っていくと、四者四様の終わり方をしています。
Pockesawから広がった波紋
2019ver.を今振り返ると、単に「2019年に使っていた4つの革ケース」というだけではありません。
腰道具の不満を一通り解消して、一度止まっていた革ケースづくり。
そこへ、仕事で使い始めた小型鋸が入ってきました。
必要に駆られてPockesawをつくる。
それが思った以上にうまくいく。
横縫いが面白い。
二色の糸も面白い。
鋸の柄まで革で仕立てるのも面白い。
なら、今度は普通サイズの鋸でもやってみよう。
鋏ケースにも、また違うステッチを入れてみよう。
気に入ったら、お揃いでもう一つつくってみよう。
一つできるたびに、そこから次の一つが出てきました。
小型鋸との出会いは、水面に落ちた一粒のしずくのようなものだったのかもしれません。
そこから波紋が広がるように、また革ケースをつくり始めました。
しかも気づけば、最初の頃とはずいぶん違うところまで来ています。
停滞していた革ケースづくりがもう一度動き出した時期。
Pockesawから発想が次々に広がった時期。
そして、シンプル一辺倒だった見た目から、装飾や遊びの方へ一度思い切り振れてみた時期。
その全部が重なっているのが、この剪定革ケースセット2019です。
今なら同じセットはつくりません。
でも、今と同じものしかつくらなかったら、今の好みも分からなかったでしょう。
途中で振り切ったり、失敗したり、使いつぶしたり。
そういうものまで全部並べてみると、2019ver.はなかなか面白い中間地点だったと思います。
2019ver.の4年前には、最初に3つの革ケースを揃えてつくった2015ver.があります。
そして、この腰道具がその後どう変わったのかを振り返ったのが2025ver.です。
2015年、2019年、2025年と、仕事で使う腰道具全体が変わってきた流れは、「使いながら変わった革ケース」でまとめています。
