今回は TOSA-KM240sheath の刃長違い、TOSA-KM300sheathを製作しました。
ちなみに、TOSA-KM240sheathとは、土佐片盛という手打ち鋸のケースとグリップをオリジナル製作したもので、240とか300という数字は鋸刃の長さのことになります。
その辺について詳しくはこちらをご覧ください。⇒【TOSA-KM240sheathのエピソード】
元々あったケースも悪くはなかったが、
では、本題です。
元々、付属していた鞘は、このように一般的な(替え刃式鋸についている)ケースに比べれば余程上等なものでした。なので、ずっとこのままだったんですが、このブログで紹介しているように、ここまでケースを自作してくると、この見た目には少々違和感を感じていました。
この鋸を使い始めて10年以上、後回しにしてきましたが、やっぱり自分の好きなデザインにしたくなりました。
こんな感じで、外に貼ってあるカバーをはがしまして、傷みが少ないので中の木製ケースは再利用しました。いつもの手順ですね。⇒【鋸ケースの作り方】
ちなみに、外側に貼ってあった黒いカバーは、合成皮革、ベルトループは完全な石油製品でした。
それでも、このようにぴっちりと覆ってあると、木製ケースのダメージは相当軽減され、割れるということが大方回避されます。詳しくは⇒【鋸ケース | Classic SN/nのエピソード】
製作する上で今回少し楽だったのは、一から型紙を設計する必要がなかったことです。はがした合皮を採寸して型紙作成に利用することができたからです。
クロスステッチとパッチワークの鋸ケース
例えば、この人には、こんな服が似合うんでは?というようなインスピレーションってありますよね?また同様に、このモノにはこれを合わせると取り合わせが素敵になりそう、というような感覚もあります。
同じような感じで、この道具に対するイメージというのは、ある程度固まっていました。使用頻度は少ないですが、この鋸に関しては、長いお付き合いですから。それに従えば、この鋸に合わせるケースは非常にシンプルなものになるはずでした。
実際、デザイン(型紙設計)の完成一歩手前まで、そのようなものでしたし、そうなるはずでしたが、最後の最後の菱目の数の調整をしている時に、ふと全く違う考えが頭をよぎりました。それは、「クロスステッチとパッチワークの鋸ケース」というものです。
これは前作の TOSA-KM240sheath ですが、このケースにパッチワークの要素をプラスしたら、もっといい感じの仕上がりになるに違いないという思いが沸々と湧き上がってきたわけです。そこでデザインを一からやり直すことにしました。
ちなみに、クロスステッチとは、糸を✖印に縫っていくことで、この画像のケースの部分に施された縫い方です。そして、パッチワークとは、つぎはぎというような意味で、この画像のように一枚の革からつくるのではなくて、何枚か接(つ)いでつくるということです。
パッチワークは少々面倒なので、接いだように見せて、一枚革にクロスステッチを飾りで入れていくことも考えましたが、やはり革と革の切れ目の立体感は魅力的に思えたのと、一枚の大きな革ではなく端切れでも、こういうものが作れるということを実証したかったのもあって、パッチワークを採用することに決めました。
実際に端切れ+クロスステッチという組み合わせは少し面倒でしたねw
まず、何分割するか、つまり横に何本のクロスステッチを入れるかというところで悩み、等幅で分割するか、幅を変えるかなど、いくつものパターンを検証しました。結果、下地の木製ケースのサイズが決まっていたことと、クロスステッチを破綻なく収めるには、菱目(縫い目)を偶数にしなければならないという制約もあって、三分割の上下等幅、中幅狭というデザインに落ち着きました。
クロスステッチ+パッチワーク鋸ケース 誕生!
冒頭にも載せたように仕上がりはこんな感じになりました。 糸は TOSA-KM240sheath とお揃いの赤と黒のクロスステッチです。クロスステッチに少し気をつかったかいあって、終始破綻することなく収まりました。横のラインだけでなく、縦にもステッチが交錯した鋸ケースとしては、まず見ることのないデザインになったのではないかと思います。
創作には経験が必要?
TOSA-KM240sheathのエピソード では、「創作には経験が必要な場合もある」などと知ったようなことを書いてしまったのですが、、、、。今回は、自分的には失敗作。経験というのも当てになりませんね~、残念。
3枚の革を合体させる横のラインを縫っている時はよかったんですがね。最後に縦のラインを縫い始めたら、これ失敗を確信しました。
デザイン段階では、縦のラインを表に出すか、後ろに隠すかを迷ったのですが、縦と横のクロスステッチが交差するところがさらなる良い相乗効果を生むように思えました。で、このデザインを採用したのですが、それが自分的には失敗でした。好みもありますから、こういうのが好きな方もいるかもしれませんが、わたしとしては、少しやり過ぎた感じがあって、シンプルに横のラインだけにすればよかったかなと後悔している次第です。
どうです?こんな感じで横のラインのみに留めておけば、より良かったような気がしません?
でもまあ、失敗も大切です。これも次の作品に生かされるとプラスに考えましょう。
TOSA-KM300sheathのグリップは?
ここまでケースの事ばかりで、グリップには触れてきませんでしたが、見慣れない人には、こちらも気に入ってもらえるのではないでしょうか。
最初の方に掲載した元の鋸の柄は、黒い塗装が剥げて汚くなってしまっていましたが、ご覧のように革で上手に覆ってあげることで、高級品に生まれ変わりました。
でもこれ、前作の TOSA-KM240sheath とほぼ同じものなんです。柄とのフィット感を微調整して改善しはしましたが、見た目は同じですね。なので、ここら辺で話はおわりです。
手打ちノコギリは目立てが必要
最後に余談ですが、現在ノコギリと言えば、大量生産の替え刃式が主流ですよね。ホームセンターなどで見る鋸は、どんな用途のものでも、ほぼ替え刃式以外見ることはないと思います。ですから、むしろ替え刃式以外でどんな鋸があるのか?って思う人もいるのではないでしょうか。
替え刃式でないとしたら、それは刃を取外しすることができないもの、その多くが手打ちの鋸です。
昔は今のように何でもポンポンと大量生産できない時代。安く鋸刃だけを取り換えるなんてことができません。で、切れ味が落ちたら目立て(研いで)をして、長く使用していたのでした。
でも、「替え刃も目立てをすれば長く使えるのでは?」という疑問が湧きます。
ところが、替え刃式鋸の刃は、衝撃焼き入れという方法で、刃先を硬化させて耐久性を上げており、その硬度は目立てヤスリの硬度を上回るため、一般的には目立てができないとされています。
ところがですよ。これは半分は嘘ですね。ダイヤモンドヤスリを使えば、研いで切れ味を取り戻すことは可能です。ただ、手打ちの鋸のように、繰り返し目立てして使い続けることは難しいようです。「ようです」、というのは、私はそこまで粘って使い続けた経験がないから、聞いた話として書きますと、替え刃の場合、刃がついている硬い部分がごくわずかなのだそうです。ですから、その硬い部分を使い切ってしまうと、切れ味があまり戻らなくなるといようなことでしょうか。
今回取り上げたわたしの鋸というのは、昔ながらの方法で鍛冶職人さんが手打ちしたものです。
そんな手打ち鋸ですが、兼ねてより切れなくなっておりまして、先日専門の職人さんに目立てに出していたものが返ってきたため、今回思い切って外装を変えることにしたというわけです。
それで返ってきた鋸の表面を見ると、このよう点々と傷がついていました。タガネノのようなもので打ったような跡が見えますか?
実は、この職人さん、刃を目立てしてくれるだけではなく、鋸の応力バランスを整えてくれるようで、、、?
要するに、微妙な歪みを矯正してまっすぐに直してくれたのだそうです。
極端な話、鋸は誤って目に見えて曲げてしまうと、抵抗があってスムーズに切れず、使い物にならなくなります。そこまでではなくても、使っていると微妙な歪みというのは出るようで、それを矯正することで、腕への負担が少ないスムーズな切れを生むということのようです。わたしには、歪みなど見えなかったのですが、専門家には素人には見えないものが見えるようです。わたしもそのような洗練された目を持ちたいものですw