手打ち剪定鋸「土佐片盛300」の革ケースを製作|15年来の一本を自分好みに

ハンドメイドオリジナル剪定鋸革ケース

今回製作した革ケースの鋸は、このブログで何度も取り上げているニョンパ ツォゲェルさんから譲り受けた一本です。譲り受けてから十数年、使用する機会こそ多くはありませんでしたが、今でも手元に残っている思い入れのある道具です。

長い間、もともと付いていた鞘のまま使ってきましたが、革ケースをいくつも自作するようになった今、改めてこの鋸にも自分なりのケースを作ってみることにしました。

こうして生まれた革ケースが、今回のTOSA-KM300sheathです。

この鋸を譲り受けた頃のこと

わたしが植木屋として独立したばかりの頃、まだたいして仕事もなかった時期に、ニョンパさんはちょこちょこと仕事の手伝いに呼んでくれました。

ニョンパさんはかなりの道具好きで、仕事をしながら道具についてのマニアックで面白い話をいろいろ聞かせてもらったものです。仕事のことだけでなく、道具についても随分影響を受けた先輩でした。

そんなある日、ニョンパさんが「これあげるよ」と譲ってくれたのが、新品の土佐片盛でした。刃長300mmの、昔ながらの手打ちの剪定鋸です。

土佐片盛という鋸

この土佐片盛という鋸は、かつて土佐(高知県)の鍛冶屋さんがつくったもので、残念ながら現在は製造されておらず、今となっては幻の手打ち鋸となっています。大量生産の替え刃式鋸が主流になっている今となっては、手打ち生産かつ目立てをしなければ使い物にならなくなるこのようなものに価値を感じる人も少なくなってしまいました。

今いかにも自分は価値を感じている風に書きましたが、そういうわたしはというと、普段は替え刃式鋸しか使ってないんですけどねw

でもこれをくれたニョンパさんは、普段手打ち鋸を使っており、目立ても本職に出して、大切に使い続けています。こういうところは本当に頭が下がります。

この「目立て」の話は、この鋸の革ケースを作り直すきっかけにもつながるのですが、それについては後ほど。

土佐片盛300本体

それでわたしが所持している片盛の鋸はこれ。
今ではだいぶ年季が入ってしまっていますが、この時点で15年程度は経っていることを思えば傷みは少ないほうかと思います。

土佐刃物について少し

土佐の刃物というのは有名でして、高知県は日本有数の刃物の産地となっています。その歴史は古く、製造の中心が山林・農作業用具であったこと、刀の鍛造技術を取り入れていることなどから、土佐打刃物と呼ばれるものは、切れ味、使い勝手が良く、耐久性も高いというところが特徴です。

土佐の刃物について興味があれば、紹介しているサイトがいくつもありますので参考までに二つ。
土佐打刃物(とさうちはもの)の特徴 や歴史- KOGEI JAPAN
土佐打刃物|さんち 〜工芸と探訪〜

改良刃鋸—片盛の形状としての特徴

土佐片盛刃の形状先
鋸刃先側
土佐片盛刃の形状元
鋸刃元側

ついでなので、面白く特徴的な改良刃の形状についてもちょっと説明します。
鋸刃部分が写っている上の画像を見てもらえばわかる通り、ちょっと特殊な切れ込みが入っていますよね。

これは改良刃と言って、大きな切れ込みの形状が特殊なだけでなく、刃の付き方にも工夫があり、縦にも横にも木目に関係なく効率よく切れるようになっています。

大工さんが使う鋸は、材木の切断方向によって横引き用と縦引き用があるのはご存知かと思いますが、その二つを合体させたような鋸が改良刃鋸となっています。

剪定作業は樹上や足場の悪いところで行うのが普通ですし、生木を切っていると途中で繊維の方向が変わるのも普通で、そのたびにいちいち横引き鋸と縦引き鋸を持ち変えるわけにもいきませんのでね。そんな工夫があるわけでございます。

ニョンパさんがこれを目立てに出しているのも、この改良刃の目立ての繊細さが一つの理由ではないかと思います。

そして、形状としてのもう一つの特徴は、刃が根本の方では細かく、先の方では粗くなっているというところ。上の画像を見比べてもらえばわかるかと思います。

この鋸は切断箇所に根本の方から刃を入れて切っていく使い方だそうで、そのために食い込みが良い細かい刃を根元に、大きく切れる粗い刃を先の方に配置するという工夫をしています。 たかが剪定鋸ですが、いろいろな工夫が詰まっているのがわかりますね。先人の知恵の蓄積を見るようで実に興味深いです。

このような鋸を一本一本鍛造し、手作りで丹念につくっていたことを思うとき、はじめてこの物の価値に気づかされ心を打たれます。

そして、この鋸の値段はいくらだと思いますか?

3万円ですか?5万円ですか?
聞くところによると1万円しないというではありませんか、、、。伝統を受け継ぐ技術を持った職人がいかに報われないか、よくよくわかります。

そこには、いかに手間暇かかろうが需要のない物はお金を出す価値のない物というやるせなさがあるし、自ら売ることのできない職人というのは基本的に買い叩かれるという悲しい現実があります。

この剪定鋸を使ってみて

ここまでこのようなありがたい話をしてきて、なおかつそれをタダでいただいていて誠に申し上げにくいのですが、この鋸は私としては使いづらい、、、で す。

えっ?えっ?今なんと?

でも、マジ×10残念な奴だと思わないでください。今説明しますッ。

土佐片盛サイズ

まず、この鋸のサイズです。

山で仕事をする林業関係ならこれくらいが適度なのかもしれませんが、私は主に住宅で仕事をする植木屋ですので、これだとちょっと長すぎるというのが正直なところ。これだとかがんで掃除するときは、絶対地面に引きずりますしね。

この鋸は元々は山仕事用につくられているようなので、そもそも細かいところに鋸を入れたり、長時間かがんで使用するには不向きと言えます。

そして、もう一つ。枝の細かいところに刃を入れて鋸の先端から切り進めるのが普通になっている植木屋からすると、先ほど説明したように、この鋸は逆に元の方から切り進めるような刃なので、鋸を引きづらいということです。

そんなわけで、せっかくの良い鋸なのですが、出番は主に大きな木を剪定するときに限られており、ほとんど休眠状態で保管されていました。それでも手放すことなく十数年持ち続けてきたのは、やはりニョンパさんから譲り受けた思い入れのある鋸だったからだと思います。

手打ち鋸は目立てが必要

現在鋸と言えば、替え刃式が主流ですよね。

ホームセンターなどで見る鋸は、どんな用途のものでも、ほぼ替え刃式以外見ることはないと思います。ですから、むしろ替え刃式以外でどんな鋸があるのか?って疑問に思う人もいるのではないでしょうか。

替え刃式でないとしたら、それは刃を取外しすることができないもの、その多くが手打ちの鋸です。昔は今のように何でもポンポンと大量生産できない時代。安く鋸刃だけを取り換えるなんてことができません。

で、切れ味が落ちたら目立て(研いで)をして、長く使用していたのでした。

でも、「替え刃も目立てをすれば長く使えるのでは?」という疑問が湧きます。ところが、替え刃式鋸の刃は、衝撃焼き入れという方法で、刃先を硬化させて耐久性を上げており、その硬度は目立てヤスリの硬度を上回るため、一般的には目立てができないとされています。

ところがですよ。これは半分は嘘ですね。ダイヤモンドヤスリなどを使えば、研いで切れ味を取り戻すことは可能です。ただ、手打ちの鋸のように、繰り返し目立てして使い続けることは難しいようです。

「ようです」、というのは、私はそこまで粘って使い続けた経験がないから。聞いた話として書きますと、替え刃の場合、刃がついている硬い部分がごくわずかなのだそうです。ですから、その硬い部分を使い切ってしまうと、切れ味があまり戻らなくなるといようなことでしょうか。

今回取り上げたわたしの鋸というのは、昔ながらの方法で鍛冶職人さんが手打ちしたものです。

そんな手打ち鋸ですが、兼ねてより切れなくなっておりまして、先日専門の職人さんに目立てに出していたものが返ってきたため、今回思い切って外装を変えることにしたというわけです。

それで返ってきた鋸の表面を見ると、このよう点々と傷がついていました。タガネノのようなもので打ったような跡が見えますか?

実は、この職人さん、刃を目立てしてくれるだけではなく、鋸の応力バランスを整えてくれるようで、、、?
要するに、微妙な歪みを矯正してまっすぐに直してくれたのだそうです。

極端な話をすると、鋸は誤って目に見えて曲げてしまうと、抵抗があってスムーズに切れず、使い物にならなくなります。そこまでではなくても、使っていると微妙な歪みというのは出るようで、それを矯正することで、腕への負担が少ないスムーズな切れを生むということのようです。

わたしには、歪みなど見えなかったのですが、専門家には素人には見えないものが見えるようです。わたしもそのような洗練された目を持ちたいものですw

手打ち鋸付属のケースは悪いものではなかった

元々、付属していた鞘は、このように一般的な(替え刃式鋸についている)ケースに比べれば余程上等なものでした。

なので、ずっとこのままだったんですが、このブログで紹介しているように、ここまでケースを自作してくると、この見た目には少々違和感を感じていました。

この鋸を使い始めて10年以上、後回しにしてきましたが、やっぱり自分の好きなデザインにしたくなりました。

こんな感じで、外に貼ってあるカバーをはがしまして、傷みが少ないので中の木製ケースは再利用しました。いつもの手順ですね。⇒【鋸ケースの作り方】

ちなみに、外側に貼ってあった黒いカバーは、合成皮革、ベルトループは完全な石油製品でした。

それでも、このようにぴっちりと覆ってあると、木製ケースのダメージは相当軽減され、割れるということが大方回避されます。これと同じような構造の鋸ケースは以前製作しました。それについては以下の記事も参考になります。

製作する上で今回少し楽だったのは、一から型紙を設計する必要がなかったことです。はがした合皮を採寸して型紙作成に利用することができたからです。

クロスステッチとパッチワークの鋸ケース

ハンドメイドオリジナル剪定鋸革ケースクロスステッチ入り

例えば、この人には、こんな服が似合うんでは?というようなインスピレーションってありますよね?また同様に、このモノにはこれを合わせると取り合わせが素敵になりそう、というような感覚もあります。

同じような感じで、この道具に対するイメージというのは、ある程度固まっていました。使用頻度は少ないですが、この鋸に関しては、長いお付き合いですから。それに従えば、この鋸に合わせるケースは非常にシンプルなものになるはずでした。
実際、デザイン(型紙設計)の完成一歩手前まで、そのようなものでしたし、そうなるはずでしたが、最後の最後の菱目の数の調整をしている時に、ふと全く違う考えが頭をよぎりました。それは、「クロスステッチとパッチワークの鋸ケース」というものです。

これは前作の TOSA-KM240sheath ですが、このケースにパッチワークの要素をプラスしたら、もっといい感じの仕上がりになるに違いないという思いが沸々と湧き上がってきたわけです。そこでデザインを一からやり直すことにしました。

ちなみに、クロスステッチとは、糸を✖印に縫っていくことで、この画像のケースの部分に施された縫い方です。そして、パッチワークとは、つぎはぎというような意味で、この画像のように一枚の革からつくるのではなくて、何枚か接(つ)いでつくるということです。

パッチワークは少々面倒なので、接いだように見せて、一枚革にクロスステッチを飾りで入れていくことも考えましたが、やはり革と革の切れ目の立体感は魅力的に思えたのと、一枚の大きな革ではなく端切れでも、こういうものが作れるということを実証したかったのもあって、パッチワークを採用することに決めました。
実際に端切れ+クロスステッチという組み合わせは少し面倒でしたねw
まず、何分割するか、つまり横に何本のクロスステッチを入れるかというところで悩み、等幅で分割するか、幅を変えるかなど、いくつものパターンを検証しました。結果、下地の木製ケースのサイズが決まっていたことと、クロスステッチを破綻なく収めるには、菱目(縫い目)を偶数にしなければならないという制約もあって、三分割の上下等幅、中幅狭というデザインに落ち着きました。

クロスステッチ+パッチワーク鋸ケース 誕生!

ハンドメイドオリジナル剪定鋸革ケースクロスステッチ入り

冒頭にも載せたように仕上がりはこんな感じになりました。 糸は TOSA-KM240sheath とお揃いの赤と黒のクロスステッチです。クロスステッチに少し気をつかったかいあって、終始破綻することなく収まりました。横のラインだけでなく、縦にもステッチが交錯した鋸ケースとしては、まず見ることのないデザインになったのではないかと思います。

創作には経験が必要?

TOSA-KM240sheathのエピソード では、「創作には経験が必要な場合もある」などと知ったようなことを書いてしまったのですが、、、、。今回は、自分的には失敗作。経験というのも当てになりませんね~、残念。
3枚の革を合体させる横のラインを縫っている時はよかったんですがね。最後に縦のラインを縫い始めたら、これ失敗を確信しました。
デザイン段階では、縦のラインを表に出すか、後ろに隠すかを迷ったのですが、縦と横のクロスステッチが交差するところがさらなる良い相乗効果を生むように思えました。で、このデザインを採用したのですが、それが自分的には失敗でした。好みもありますから、こういうのが好きな方もいるかもしれませんが、わたしとしては、少しやり過ぎた感じがあって、シンプルに横のラインだけにすればよかったかなと後悔している次第です。

どうです?こんな感じで横のラインのみに留めておけば、より良かったような気がしません? 
でもまあ、失敗も大切です。これも次の作品に生かされるとプラスに考えましょう。

TOSA-KM300sheathのグリップは?

ここまでケースの事ばかりで、グリップには触れてきませんでしたが、見慣れない人には、こちらも気に入ってもらえるのではないでしょうか。
最初の方に掲載した元の鋸の柄は、黒い塗装が剥げて汚くなってしまっていましたが、ご覧のように革で上手に覆ってあげることで、もうどこからどう見ても高級品に生まれ変わりました。

でもこれ、前作の TOSA-KM240sheath とほぼ同じものなんです。刃長300㎜でも240㎜でも、同じ土佐片盛だけあって、柄は共通でしたので、柄とのフィット感を微調整して改善しはしましたが見た目は同じです。

鋸の柄のグリップに関してはこんな記事もありますので、興味があればご覧ください。

このあとにも、譲り受けた一本の鋸に合わせて革ケースをつくることになります。

そのときにつくったのがSADARIです。

土佐片盛240、土佐片盛300、SADARIのように、一本の鋸に合わせてつくったケースを含め、これまでの鋸ケースの流れは、「鋸と革ケース」でまとめています。