これまで、刈込鋏のためにつくったお揃いの二つの革製品を紹介してきました。
まず一つ目が、刈込鋏の刃を保護するためのケース、TIPです。
そしてもう一つが、作業中に刈込鋏を腰へ保持するためのホルダー、FRUSTUMです。
どちらにも同じ赤い糸でクロスステッチを入れ、形の一部にも似たスリットを設けています。

(下) 刈込鋏ケース TIP
ここまでの記事だけを見れば、TIPは保管用。
FRUSTUMは作業用。
お揃いでつくった、用途の違う二つの革製品です。
でも実は、
この二つ、最初から別々のものとして考えたわけではありません。
TIPとFRUSTUMは合体します
FRUSTUMを見て、
「なんでここにホックが付いているんだろう?」
と気になった方もいたかもしれません。
その相手は、TIPです。
FRUSTUMの上からTIPをかぶせ、ホックを留めます。

すると、二つだった革製品が一つになります。
この状態につけた名前が、CAPIROTEです。
TIPとFRUSTUMは、最初からこの形になることを考えてつくっていました。
なぜ二つを合体させたかったのか
そもそもの話は、刈込鋏ホルダーには二つのタイプがあるというところから始まります。わたしが知る限り、市販されている刈込鋏ホルダーには、大きく分けて二種類の形があります。
一つはFRUSTUMのように、刈込鋏の柄付近だけを保持するコンパクトなタイプ。

革の使用量が少なく、サイズも小さい。腰につけても邪魔になりにくく、刈込鋏の出し入れも簡単です。
その代わり、刃はむき出しです。
もう一つは、刈込鋏の刃まですっぽり革で覆ってしまうタイプです。こちらは刃が露出しません。
作業中に自分の脚などへ刃を当ててしまう心配が減りますし、狭い場所で動いた時に、露出した刃で車や壁などを傷つけてしまう危険も少なくなります。
安全面ではこちらの方が優れています。
ただし、当然ケースは大きくなります。腰につければ、その分かさばります。刃全体を覆うだけの革も必要です。値段も割高になります。
つまり、
コンパクトで身軽なタイプにも良いところがある。
刃を覆う安全なタイプにも良いところがある。
どちらか一方が絶対に優れているという話ではありません。
だったら、必要に応じて両方使えたら一番いいんじゃねぇ?と思ったわけです。
FRUSTUMにもCAPIROTEにもなります
そこで考えたのが、刃を覆う部分を最初からホルダーと一体にしてしまうのではなく、取り外せるようにすること。
FRUSTUMだけなら、刃を露出したコンパクトな刈込鋏ホルダーとして使え、TIPを取り付ければ、刃まですっぽり覆うホルダー、CAPIROTEになります。

ここは今回の構造で、わたし自身が一番面白いと思っているところです。
一つのホルダーで、
軽くコンパクトに使いたい時はFRUSTUM。
刃を覆って安全に使いたい時はCAPIROTE。
二通りの使い方ができる。
刈込鋏ホルダー自体がそれほど一般的な道具ではありませんし、わたしが知る限り、この二つの形を着脱式で切り替えられる市販品も見たことがありません。
だったら自分でつくってしまおう。
という、いつもの病気「ソレツクッチャエバイイジャナイ症候群」ですね(笑)
CAPIROTEのまま作業できます
CAPIROTEは、単なる持ち運び用や移動用のカバーではありません。
FRUSTUM(簡易ホルダー)にTIP(刃カバー)を装着したまま作業に使うことを前提にしています。
ここは大事なところです。
FRUSTUMに刈込鋏を差し込み、その上からTIPをかぶせる。
これで刈込鋏の刃は完全に覆われます。
その状態で腰へ下げておき、刈込鋏を使う時にはCAPIROTEから鋏を抜きます。使い終わったら、またそのままCAPIROTEへ戻す。
つまり、普通の刈込鋏ホルダーと使い方は同じです。
ただ、刃が露出していない。
狭い場所での作業や、車・建物など傷をつけたくないものが周囲にある場合には、この方が安心できます。
逆に、今日は広い場所で邪魔になるものもない。できるだけ腰まわりを軽くしたい。
という時なら、TIPを取り外してFRUSTUMだけで使えばいい。その日の作業内容や場所によって選べます。
合体はホックを留めるだけです
そうはいっても切り替えが面倒では、結局使わなくなってしまいますよね。ですので、TIPとFRUSTUMの着脱はできるだけ簡単にしました。
FRUSTUMの上からTIPをかぶせて、表裏二か所のホックを留めるだけ。

これでCAPIROTEになります。
反対に外す時は、ホックを外してTIPを抜くだけです。
特別な金具を取り付けたり、ベルトを通し直したりする必要はありません。
何度か付けたり外したりしてみましたが、かなり簡単です。
スリットにもちゃんと理由があります
TIPとFRUSTUMには、それぞれ革の端にスリットを入れています。TIPの記事やFRUSTUMの記事では、お揃いのデザインというような書き方をしました。
もちろんそれも理由の一つですが、実は、このスリットは二つを合体させやすくするための構造でもあります。
CAPIROTEにするときは、通常TIPがFRUSTUMの外側へかぶさります。
逆に被せることも可能ですが、もしTIPを内側へ入れてしまうと、上から刈込鋏を差し込んだ時に革の端へ引っ掛かってしまいます。
そこで通常はTIPを外側からかぶせる構造にします。
TIP側にスリットを入れておくことで、FRUSTUMへかぶせやすくなります。さらにFRUSTUM側にもスリットがあることで、接続部分が少しすぼまり、TIPを重ねやすくなっています。
細かい部分ですが、実際に付けたり外したりするものなので、こういうディテールは重要です。
そして、スリットが入ると見た目もそれなりにサレた感じになります。洋服でもスリットが入っていると途端に雰囲気が変わりますもんね。
機能のために考えた形が、そのままデザインにもなる。そういうのは結構好きです。
TIPとFRUSTUMという名前にも意味がありました
ここで、二つの名前についても種明かしです。
TIPは、先端。
FRUSTUMは、円錐などの先端を切り落としたような形、円錐台。
という意味です。
FRUSTUMの記事では、その形から名前をつけたと書きました。
それはその通りです。
ただ、なぜわざわざFRUSTUMを少し長めにつくり、先端を失った円錐のような形にしたのか。
そこにはもう一つ理由がありました。
FRUSTUMへ、先端であるTIPを取り付けると、

このような先の尖った形になります。
このシルエットの発想元になったのが、ちょっと奇妙なスペインのとんがり帽子「CAPIROTE」でした。
最初にCAPIROTEの形を思い浮かべ、そこから逆算するようにTIPとFRUSTUMを考えています。
ですから、TIPという名前も、FRUSTUMという名前も、単体だけを見てつけた名前ではありません。
TIP+FRUSTUM=CAPIROTE
ここまで揃って、最初から考えていた形になります。

赤いクロスステッチも最初からお揃いです
TIPとFRUSTUMには、どちらも同じ赤い糸でクロスステッチを入れました。
二つを別々に見ても、「同じシリーズかな?」くらいには見えると思います。
でもCAPIROTEにしてしまえば、当然一つの革ケースです。

別々の革製品を後から無理やりつないだように見えるより、最初から一つのものとしてつくったように見えてほしい。
そのためにも、革や縫い方、ステッチの色、スリットなどを揃えています。
今回つくってみた感じでは、最初に頭の中で考えていた姿と、それほど違わないものになりました。
そこは結構満足しています。
保管する時にも二つを合体させておけます
CAPIROTEのもう一つ便利なところは、作業していない時。
刈込鋏を保管する時には、大きな刃物ですから、むき出しのまま置いておくとちょっと危ないので、当然刃のカバーであるTIPを装着します。
その時、ホルダーであるFRUSTUMだけ別に外して保管する必要はありません。FRUSTUMも一緒につけたままCAPIROTEにしておけばいい。
そうすれば、「ホルダーをどこへしまったっけ?」となることもありません。次に刈込鋏を使う時には、そのまま持っていけばFRUSTUMも付いています。
TIPだけなら刃の保護ケース。
FRUSTUMだけなら作業用ホルダー。
そして二つを一緒にしておけば、安全な作業用ホルダーであり、そのまま保管ケースにもなります。
別々に使えることも便利ですが、使わない時には一つにまとめておけるというのも、意外と便利なところだと思います。
二つで三つの使い方ができる刈込鋏ケース
今回つくったのは、TIPとFRUSTUMという二つの革製品です。
でも使い方としては、
TIP単体なら、刈込鋏の保管用ケース。
FRUSTUM単体なら、コンパクトな作業用ホルダー。
そして、二つを合わせれば、刃まで覆う作業用ホルダーCAPIROTE。
二つの部品で、三つの使い方ができます。
刈込鋏ホルダーという、それほど一般的ではない道具を、わざわざ二つに分けて、ホックでくっつくようにして、赤いクロスステッチまで入れて、最後はスペインのとんがり帽子の名前までつける。
これはソレツクッチャエバイイジャナイ症候群の代表的な症状です(笑)
普通に考えれば、そこまでしなくても刈込鋏は使えます。
でも、市販品にはないものを自分の使い方に合わせて考えて、実際に形にできる。
こういうところが、革ケースをつくる面白さです。
TIP。
FRUSTUM。
そして、
CAPIROTE。
これで今回の刈込鋏ケース三部作は完結です。
CAPIROTEもまだ実際の仕事では本格的に使っていません。着脱や腰への装着は試していますが、ホックの耐久性なども含めて、本当の使い勝手はこれから確認していくことになります。
また例の病気が再発しないことを祈ります。
CAPIROTEを構成する二つの革ケースTIPとFRUSTUM。
それぞれにも物語があります。
