今回製作した革カバーと言いますか、革グリップと言いますか、これがそもそも何をするための道具なのか?こうして見ると、見たこともない。今まで世界に存在しなかった道具かのように見えなくもないような。
この道具は、俗に「チョンボ棒」なるものに近いもので、簡単に言うと、樹上でロープを手繰り寄せたり、引っ掛けたりするのに使うものです。
通称チョンボ棒、適切な名称は?
ところで、このような道具は昔ながらの植木屋には、あまり馴染みのないもので、どちらかというと林業や伐採屋が使う道具ではないでしょうか。そして、形態的に確立された商品というものがなく、既存の製品にそれぞれが工夫を加えて使っているような状況です。したがって、林業で使うこのようなものを指して何というのかも曖昧なところがあります。そもそもチョンボ棒という名称も、「何かを引っ掛けたりする長い棒」程度の広義な使われ方をしているようにも思います。
わたしが浅く調べたところによると、岩場を登るクライミングの世界で、届かない位置(アンカー)にカラビナをクリップするのに使う棒を、一般的にチョンボ棒ということが多いようです。別名をクリップアップスティックとか他にもいくつか名前があって、言ってみれば定まっていません。こんな感じの製品です。
一方で、わたしのような業界で何と呼ばれているのか?林業とか伐採業界の人たちの間では、「如意棒」と言ったりするようですが、これが全国的に通じるワードなのかは不明です。
実際には、ツリークライミングギアメーカーSTEIN製のミニリーチポールという製品もあります。
リーチポールというのは、高い位置にある窓ガラスを掃除する際に使う伸縮式の道具を一般的には指すようなので、樹上作業用道具の呼び名という一般認識はないのではないでしょうか。
ただ、専門メーカーSTEINがリーチポールと言うなら、この道具はもうリーチポールと言う名前になるのかもしれませんね。
ただ、こうした既存の製品もちょっと微妙なんですよね。ちょっと届かないロープを引き寄せるくらいにしか使えないので。
わたしとしては、それプラスちょっと離れた位置にある枝にロープを引っ掛けたり、ちょっとした引っ掛かり枝を引っ張ったりもできるものが欲しいのです。少なくとも、わたしが探した範囲では、そんな都合のいい道具は見つかりませんでした。ならば、自分で形にしてみるしかありません。
そんなわけで、まあ、ネーミングの事は、確固たる道具としての形ができてからだ。まずは道具としての形をつくらなければなりません。必要なのは、コンパクトに収納でき、長く伸びる丈夫な柄と、ロープやカラビナを引っ掛けたり、引っ張ったりする先端部分。この二つをどうするかが問題でした。これが出来上がらなければ、道具としては成立しない。
YABUKARAが出来上がるまでの道筋
このYABUKARAという新しい道具づくりは、まず「柄に何を使うか」を探すところから始まりました。
条件としては、2~3mまで伸び、縮めた時コンパクトで、かつ軽くて丈夫、そしてもちろん安いもの(最大3,000円くらいまで)という希望です。
実際に似たようなものを探してみると、条件に合致するものはなかなかありませんでした。例えば、先ほども紹介した電気配線用の電工キャッチャーや、二階の窓ガラスを外から拭くことができる柄、自撮り棒のロングバージョンなどが挙げられます。惜しいものとして、クライミングで使われる製品がありましたが、良さそうな製品は1万円以上。
えっ!少しばかり伸びるただの柄ですよね?単なる棒が1万円...。とてもじゃないがわたしには手が出ません。馬鹿にしないでいただきたい!
そう憤慨しながらさらに探していると、素材としては釣りに使う 玉(たも) の柄が良さそうだという情報を掴みました。そして見つけたのが、「ランディングギア シャフト スーパーナノ300」という玉柄でした。
ただ難点として、お値段がちょっと...。ですが、棒に1万円以上の値がついているのを目撃してしまったあとでは、5~6千円はお買い得に思えました。だって半額以下だよ!
まあいい、柄の先につけるパーツは自作する予定だ。小さな金具をつくるのに大した材料費はかかるまい。そう考えて、当初の予算の倍の金額を出して柄を購入しました。
そして、玉柄が届いてから、それを前に先っぽのパーツをどう作るか頭を悩ませました。
似たような商品や既存のアイディアをネットで検索すると、S字状になった先端がついた商品や針金のような金属を曲げて作ったもの、塗装用ローラーを転用したものなど、色々なヒントが点在していました。
どのみち材料費は数百円だし、実際には、作って使って改良して、その作業を何度か繰り返すんでしょうね。
そんな風に考えていたら、おもしろいプロダクトを見つけました!しかも、売ってる。まさかのわたしが欲しい先っぽだけを!!
それは以前から時々読ませてもらっていた「木登り日和」というブログの中にありました。
作者はこのブログ主のサンデーツリークライマー(アカウント名)ニックさんです。ご自身はサラリーマンをしながら、趣味で始めたツリークライミングや伐採作業がどんどん面白くなり、ついにはオリジナルの道具の製造販売まではじめてしまった方のようです。
そして、その記事がこれ。
【グルグルフック新発売!】https://sundaytreeclimber.hatenablog.com/entry/2022/07/23/223159
これまでなかった物を形にする価値
「グルグルフック」、この製品の詳細については、わたしが説明するよりも木登り日和を読んでもらうとして、感激したのは二つ。まさに自分が欲しいと思っていたドンピシャのパーツが既に製品として販売されていたこと。
そして、今まで確たる形がなかったものを...ニックさんが、試行錯誤しながら、販売できるくらいの完成度に仕上げて提供してくれていることです。
ボルトと金属の棒を曲げただけの単なる小さな金具。材料費で言えば、当初考えていたように数百円あるいはもっと安いはず。それでお値段はというと送料込みで3,000円ちょっと...。
でもそれが何ですか!そこにはノウハウと創意工夫というお金では買えないものが詰まっている。お値段以上の価値を感じました。
インスパイアでズルズルガバガバ
と、まあこのように柄の選定で迷い、先端金具であれこれ考えてくると、まだ一度も使用していない道具にも不思議な愛着がわくというのが人情です。
インスパイア ザ ネクスト!
ここまで来たら、外装もちょっと手直ししたいという気がむくむくと湧いてきて、久しぶりに全く新しい道具のための革細工を作ってみたくなりました。
経緯としてはこうです。
1.「柄は大事!柄がしょーもなかったら、まず始まんないかんね」→ただの柄に5,000円。
2.「まあ柄も大事なんだけどさ、この道具のかなめは先端部分だよね~」→小さい金具に3,000円。
3.「やっぱ見た目が一番大事っしょ!」→不要な外装のカスタムに手間賃込みで10,000円はかかってる?
気づけば市場価格にして2万円はくだらない代物になっていました...。よくもまあズルズル、ガバガバと。
そんなこんなで出来上がったのが、今回のYABUKARAです。では、実際にどんなものになったのか見ていきます。
YABUKARAの仕様と出来栄え

今回製作したのは、このように丸い筒のまわりを革で包み、そこに抜け止め兼ストラップとなるベルトを縫い付けるという、割と単純なものです。
今回の出来栄えに関して、元からこういうものかな?ってくらいには馴染んでいるような気がします。
ですが、上下の黒いあからさまなプラスチック部分と革のミスマッチが際立っているように感じるのと、のっぺりとし過ぎて面白味には欠けるかなと。見事にイメチェンを果たしてはいますが、イメージしていたより平凡な出来になってしまったというのが作者の感想であります。

玉柄LGSスーパーナノ300の特徴とイメージを払拭する試み

イメチェンと言われても、元の姿がわからなければピンと来ないですよね。革で覆う前の製品の姿はこちら。
この玉柄は仕舞寸法がコンパクトですが、最大3mまで伸び、カーボン製で軽く、耐久性もあって、機能面で優れた製品だと思います。
また、概ねこのデザイン自体もいいものだと思いますよ。画像からは伝わらないかもしれませんが、決して安っぽさはありません。
でもね、いくつかの点が自分にとっては気になり、改善できればと思ったわけです。自分が使うシーンもそうですし、誰であれ人が使う道具は、その人自身を投影したものとなると思います。
どういった点が気になったか。
まず、商品名がデカデカとプリントされているところが引っかかりました。
おっ、アイツが使ってる柄いいやん。なになに「ランディングギア――シャフト スーパーナノ300」か。
「CATCH THE BIG ONE」だってよ。素敵やん♡俺も買うやん♡――購入前ならそうなるとしても、既に手にしたわたしに、この商品名のプリントは不要です。
次に、気になったのが、ストラップの部分。
携帯しやすいように気を利かせてくださっていることには、メーカーさんなりの考えがうかがえて好感が持てるものの、このパーツが製品のデザイン的価値を著しく損なっています。なんせこの部分が格段に安っぽい。
...と思います。誰かが懸命につくった製品をディスりたいわけではないので(もう十分ディスってるって?)、これ以上は何も言うまい。ただ、自分が携帯するなら別の仕様にしたいと思ったところでした。
そして、全体として釣り竿感が強く、わたしは「水辺で魚を捕獲したいわけではない」。どちらかと言えば、「木に登ってロープを捕獲したいのだ」。
それにふさわしいデザインとは?自分が身につけたいと思えるものとは?といったところが大事なポイントです。
伸縮する玉柄に抜け止めをつける

この玉柄は、釣り竿のように伸縮する仕様になっています。
先ほどYABUKARAの仕様で「抜け止め兼ストラップ」と書きましたが、(まあ、そんな場面はあまりないと思いますけど)本体を逆さまにしたときに、収納されている竿が不意に飛び出してこないよう、ストッパーを付けることにしました。
抜け止めストッパーは、当初、革のストラップをグルっと金具の首に1周させるなどして、最終的に本体のところにボタンで固定しようと考えていました。そうすればグラつかないし、見た目にもきちっとした収まりになります。きっちりした性質のジャパンメイドならそうなっているでしょう。
YABUKARAの特徴的なストッパー

ところが、出来上がったものはコレ。全然固定されてないし...。
いやね、固定方法について再考しながら、試しに、ハギレでこさえた革ベルトの先のD環をいじくっていたら、なんとなくこんな感じになって、これで十分だわ~とそのまま行ってまいました。

結果として、先に挙げた改善したい点については一定の成果を収めたものの、自分としてはデザイン的に今一つ惜しい出来となりました。
どうすればもっとカッコ良くなったのか、デザインをもう一度見直して、次の竿につなげる、ということはまあないでしょうねw
こんな物いくつもいくつも所持するようなもんではないですから。
YABUKARAという名前の由来

最後に、この道具について前にも触れた「チョンボ棒」という呼び名。これはなんともダっせーですね。連想されるイメージが最悪だ。わたしはズルをしているんじゃないんです。ただ純粋に楽になりたいだけなんだ!
「如意棒」というのも、キーボードで打ち間違って何度「尿意棒」と誤変換されてしまったことか。汚らしい!
そんなわけで、この道具そのものの呼び名とは別に、今回自分が作った一本には名前を付けることにしました。
これは樹上において、ロープを引き寄せたり、上に送ったりする道具です。ならば、【導く、先立つ、糸口】などの意味を持つ「リード」と、【棒、(釣り)竿】などの意味を持つ「ロッド」を合わせて、「リードロッド」「リーディングロッド」ぐらいのシンプルかつ普通な名前でどうだろう?
う~ん、でもそれはあまりにも平凡なネーミングだ。
で、グルグルフック付き玉柄(レザーVer.)である今回のプロダクトは、タイトルにあるように「YABUKARA(やぶか⤴ら)」になりました。
突然葉っぱの茂みからこんな棒がニョキっと出てきたら、樹上にいる生き物はさぞかしビックリして飛び上がることでしょう。
それはまさに「藪から棒に」です。
YABUKARAのように、ケースをつくるだけではなく、仕事で使う道具そのものを革で自分なりに仕立ててきたエピソードは、「仕事道具を革で仕立てる」でまとめています。
