これは、このブログで何度か紹介している赤を基調としたお揃いの剪定道具3点セットの成れの果てです。
この革ケースのエピソードはこちら【剪定革ケース3点セット製作のエピソード】
ヌメ革は使い込むほどに味わいが増して、新品にはない表情が出るのが特徴の一つですが、これはもう、、そんなものは遥か超越してますねw日焼け、擦れ、キズ、汚れ、汗、濡れ、糸のほつれなどなど、あらん限りのダメージを受けて、這う這うの体(ほうほうのてい)といった感じ。
でも、実務で使い込んでくれた証!!と言えなくもない、、、。
この間、このボロボロになった革ケースを何とかできないかというか、新しいのを作ってくれ、という持ち主さんから依頼があり、木鋏ケースは何とかまだ使えるため様子見に、剪定鋏ケースは修復して再利用、鋸ケースは修復不能のため作り直しするということになりました。
それで今回は、剪定鋏ケース修復の一部をご紹介したいと思います。
ちなみに、在りし日の姿はこちらです。
もちろん、このようなきれいな状態に戻すことは不可能なので、使うのに支障がない状態に戻すという意味での修復になります。というのも、冒頭の画像の剪定ケースをよく見てもらうとわかるのですが、縫い目の糸が一部切れてしまっている状態で、このままでは刃が飛び出してしまいます。
なぜ、糸がほつれてしまったのかというと、どうやらこれをつくった時とは違う剪定鋏を入れて使ってしまったようで、刃の角度やサイズが違うために、糸が切れてしまったということのようです。多少の融通はきくものの、オーダーされた時の剪定鋏用に作った革ケースのため、形状の違う刃物を入れると、このようなダメージを負ってしまうことがあります。
リペアー開始
今回修復作業で行ったことは主に以下3点です。
- 革のクリーニング
- コバ処理のやり直し
- 縫製のやり直し
革のクリーニング
まずは、革が相当汚れてしまっているので、クリーニングをしたいのですが、どうせなら、徹底的に汚れを落としたいので、ひとまず、残っている糸をすべて切って開いてしまいます。
こんな感じですね、こうすれば、普段は届かない中の方まできれいにできますので。
そして、縫製したところは、再度縫い直しますので、一度すべての糸を切って外してしまいます。この画像では、糸が残っているように見えるかもしれませんが、これはすべて取り除いた状態で、残っているように見えるのは糸の跡です。
この状態で、一度クリーニングをします。
革のクリーニングでは、レクソルというのを使用しています。このようにだいぶ汚れがひどい革をきれいにする方法を知りたければ、こちらの記事【汚れた革が見違える!頑固な泥・ほこり汚れを除去する方法】を参考にしてみてください。
そんなわけで、ゴシゴシと洗ってしまって、コンディショナーまでかけたのが下の状態です。
、、、と、まあ、ぱっと見画像では、、、綺麗になったのか、なってないのか、わからないような状態ではありますが、クリーニングに使用したスポンジやウエスには、だいぶ汚れが移って汚くなっていたので、これでもきれいになった状態です。糸も外しているので、穴の中まできれいに掃除することができました。
革の洗浄では、表面的についた軽い汚れだけであれば、違いがはっきり分かるのですが、今回のように相当使い込んで中まで浸透した状態では、パッと見では大きな違いが出ません。
コバ処理のやり直し
続いて、コバの部分もダメージが大きかったので、一度残っていた処理剤をはがし、もう一度、このように丁寧にサンドペーパーをかけた上、処理剤を塗り直します。
縫製のやり直し
最後に、新しい糸で元の通り、縫い直しを行いました。今度は赤ではなく黒い糸を使用しています。
リペアー終了
最終的には、こんな形で糸とコバがきれいになりました。
この革ケースのコバは以前まで赤色でしたが、今回の修復では透明の処理剤を使用しましたので、このような仕上がりになっています。
修復前はこんな状態でした。
そして、修復後はこんな感じになりました。
革自体のコンディションは大きくは改善できませんでしたが、ひとまず、当初の目的である通常使用する上で問題ない状態には戻すことができたと思います。
それにしてもコレを見ていたら、ちょっと黒光りしていて、なんだかミイラみたいに見えてきました、、、。
クリーニングに使用したレクソルは、革を濡らしてしまうような感じになるため、革の色のトーンが若干暗くなるというのがありまして。
撮影時の光の関係というのもあるのですが、最初から比べるとちょっと黒くなったようです。
それから今回ここまでで書いていない処理を1点施しているのですが、気づきましたか?若干ですが張りが出ているように見えません?シャキッとした感じというか。
実は、革がだいぶくたびれて、ふにゃふにゃになっていたので、形を固定するために硬化剤というものを塗布しています。これをすることで、若干ですが仕上がりのシャッキリ感が出て、完成度が上がります。
でも、ひとつ誤解のないように断っておくと、初めに作った時には硬化剤は使用していません。今回リペアーするに当たり、+α完成度を上げるために硬化剤を使用したという点をご了承ください。ですので、この工程は別にやらなくても問題ありません。
というわけで、今回のように多少痛んでしまった革ケースでも、「革のクリーニング」「コバの再処理」「縫い直し」という3つの作業を行えば、再度使用することが可能になります。
ここでちょっと鋭い人であれば、「別に切れたところだけ縫い直すだけでも良くねぇ?」と思うかもしれません。確かに、使用する上で支障のある部分だけ直せば使うことはできます。
でも、もう少し長期にわたって使用するには、革のクリーニングとコバの処理が必要です。要するに、延命ということですね。
革に汚れが付いたままですと傷みが進みますし、コバが荒れた状態でも同様です。ですので、使用上問題のある部分を直すとともに、革のコンディションを整えてやることで、少しでも長く使用できるというわけです。
市販の鋏ケース他、革製品は大体同様ですので、機会があればやってみてくださいね。