これはペンを多めに収納できるようつくったロールペンケースで、自分以外の人のためにはじめてつくったものです。
その方が以前設計事務所勤めでバリバリ建築設計の仕事をしていた頃に、わたしが自宅のことでちょっと相談にのってもらったことがあり、お礼としてリクエストを聞いてつくったという経緯があります。
開くとこんな感じになっていて、ペンが10本と鉛筆の芯か何かを入れられるポケット付きです。
この基本デザインは、わたしがおすすめしている参考本の中の一冊の著者である野谷久仁子さんの工具入れを参考にしています。
専門家のボトルネックとは?
ところで、先程も書いたように、このペンケースは、わたしが初めて人のために作った革ケースであり、その制作を通して、改めて気づかされたことがありました。
わたしがこの時改めて気づかされたことは、あらゆるビジネスにも共通して言える気づきになると思いますし、特に、専門家と呼ばれる特定の専門性の高い分野で活躍されている方は、共通して感じていることではないかと思います。
そして、仕事をするうえでそこがボトルネックになってしまっているケースが多いのではないかという気もしています。
この制作を通して私が気づかされたこと。
それは「自分が見えている景色と他人が見えている景色は違う」ということであり、「自分が見えている景色を正確に他人に伝えるのはなかなか難しい」ということです。
もう少しわかりやすくビジネスの場面で言えば、プレゼンがこれに当たると思います。
自分が見えているものを人にわかりやすく伝えるのは苦手
専門家というのは、自分の専門分野にのめりこんで熱中します。結果、その分野のことはとても詳しいのですが、専門外の人(お客さん)に、専門的なことを伝えるのが苦手だったりします。
専門家の中でも研究者であれば、それでもいいかもしれませんが、多くの人はそうではなく、一般のお客様などとの接点もあるのが普通ではないでしょうか。
そんな時に、自分が思い描いていることを上手に伝えられないと、技術も良いアイディアもあるのに、仕事に結びつけることができず、仕事の幅を自ら狭めてしまうことになります。
せっかくアイディアとそれを実現する力があっても、実現されないというのはジレンマですね。
革のペンケースで起こったすれ違い
話を戻して、このペンケースをつくる際、それまで自分の道具ケースしかつくったことがなく、ましてや人にあげるものなどもつくったことがなかったので、完成品をつくる前段階として試作品をつくって、感じを見てもらおうと考えました。その時つくったものがこの画像です。
冒頭の完成品と見比べて、画像だけでは細かな違いはわからないかもしれませんが、完成品をあげた後、本人は「あれとこれは別物だ」と言っていました。
希望する色なども聞いていたので、本番と同じ材料で作れれば良かったのですが、カットされた革って意外と高いものです。そこで捨てようかとも思っていた端っこで質の悪いヌメ革で試作品をつくりました。
自分としては、大体のイメージと使い勝手を確認する意味でつくったものでしたが、ちょっと説明不足だったようです。
この試作品をつくったことで、いらぬ心配をかけてしまったことが後日談から判明しました。要約すると、試作品をつくって以降、全っ然期待されていなかったようです。
わたしの中では、この試作品をつくったときに、完成品のイメージがはっきりと見えていました。
ですので、今見ても基本的に試作品と完成品は別物とまでは思わないのですが、人によって感じ方は違いますし、説明の仕方によって理解の程度も変わってくるのでしょう。改めて自分の足りなさを実感した事柄でした。
何かを伝えようとするとき、自分の頭の中を寸分たがわず投影してくれるマシーンでもあれば便利なのですが、それはまだちょっと先の未来のようです。
今のところ、自分で上手に説明する以外に方法はないようです。
専門分野の人にありがちな間違い3つ
わたしが普段気を配っているつもりで過ちを繰り返していることを挙げるとこのようなことです。
- つい説明の端々で専門用語を使ってしまう。
- その程度のことは誰もが知っているという前提で説明する。
- 言葉の選択の間違いで違ったイメージを相手にすり込んでしまう。
1.つい説明の端々で専門用語を使ってしまう
意味のはっきりしない単語を使われると、その単語に引っ張られて会話全体の理解がおろそかになるということは大人でもあることです。
また、あまり一般的でない言葉に対しては、間違った解釈をしている可能性もあって、そうなると会話全体も違った解釈をされる場合があります。
自分もよくやってしまうのですが、会話でわからない単語が出てきても、場合によってはその意味を問うことをせず、知ったかぶりを決め込んでしまう人っています。
こちらとしては専門用語だと思っていない言葉でも、一般的でなければ同じことなんですが、それって狭い世界に生きていると気づかずにいることがあります。
2.その程度のことは誰もが知っているという前提で説明する
今の専門用語のこととも関連することですが、例えば何かの問題が起きているとき、なぜそのようなことが起きているのか仕組みを事細かに説明するのが必ずしもいいことではないと思います。かえって混乱させてしまうことにもなりますので、ある程度の省略は必要でしょう。
ですが、省略というのではなくて、その程度の仕組みのことは誰でも知っているという風に思ってしまって、そこをすっぽり抜かして説明してしまうということはないでしょうか?
「なぜそうなるのか?」が判然としないと、心から納得はしてもらえません。結果として仕事を逃してしまうことになります。
3.言葉の選択の間違いで違ったイメージを相手にすり込んでしまう
ここまで言い出すときりがないのですが、例え話や言い回しをミスると間違ったイメージをを抱かせてしまうことがあります。例え話などは、結構強い印象を与えてしまいますので強力なツールです。
こういった場合、相手に少なくともイメージを湧かすところまで行けている人なら、ちょっと気を付けて表現すればいいですが、わたしなどは、これは良い例えだと思って得意げに説明した内容が悪すぎて、まったくイメージを湧かすところまで行かないことがよくあります。
ハッキリ言って絶望的。
自分と他人は明確に違う
「自分が見えている景色と他人が見えている景色は全然違う」という前提に立つことが大事です。
でも、ついつい同じ景色を見ていると錯覚しますし、面倒だから同じものを見ていると思いたい気持ちがあります。
ビジネスに限らず、普段の会話、男女間の関係なども、この前提に立てばもう少しわかり合えるのではないかと思いますが、染みついてしまった悪癖は結構手ごわいです。
小学生にもわかる言葉で説明しよう
伝える技術といったことを本やインターネットで調べると、「小学校高学年でもわかるように説明すること」といった内容を見ることがあります。
初めてそれを目にしたとき、「馬鹿にしすぎじゃん?」と感じたものですが、特に、ブログ記事などでは、そのようにわかりやすく書かないと読んでもらえないような実感が確かにあります。
行き過ぎてかえってわかりにくくなるという例もブログの中にはありますが、専門外の人は基本的に素人だということに違いありませんので、小学生に説明するような気持ちで会話する心づかいは必要かもしれません。
革のペンケースからはだいぶ離れた内容になりましたが、そんなことを改めて感じた一件でした。