剪定鋸のケースといえば、木製かプラスチック製が一般的です。
わたしが知る限り、普通サイズの剪定鋸を収納する純革製のケースというのは、ほとんど見かけません。革ケースばかりつくってきたわたし自身も、小型の鋸用を除けば、一般的な250mmほどの剪定鋸ケースを革だけでつくったことはありませんでした。
別につくれなかったわけではありません。ただ、純革製の鋸ケースには、ずっと引っかかっていたことがあったんです。その考えが少し変わるきっかけになったのが、2021年につくった小型鋸用の「WiredSaw」でした。
「純革でも、案外いけるんじゃないか?」
そんな手応えは得たものの、そこから普通サイズの剪定鋸ケースを実際につくるまでには、さらに4年かかりました。
そして2025年。
ようやく形にしたのが、今回紹介する純革製剪定鋸ケース「WoodyWave」です。
ケースに収めるのは、もう15年ほど使い続けているアルスのウッディ。革ケースづくりを始めた頃から使ってきた、わたしにとっては馴染み深い一本です。
なぜ、革ケースをつくっている人間が、普通の剪定鋸だけは長いこと純革製にしなかったのか。そして、WiredSawをつくってからWoodyWaveまで、なぜ4年もかかったのか。
今回は、そのあたりから書いてみようと思います。
純革製の剪定鋸ケースをつくらなかった理由
純革製の剪定鋸ケースというのは、わたしが知る限り、ほとんど市販されていません。
なぜ売られていないのか。理由はいくつか考えられます。
まず、革だけでそれなりにしっかりした鋸ケースをつくろうとすると、どうしても値段が高くなりがちです。鋸ケースというのは、鋸を買えば最初から付いてくるものです。木やプラスチックなら比較的安くつくれるものを、わざわざ革でつくって値段を上げても、汎用品としてはなかなか売りにくいのではないでしょうか。
そして、もうひとつ大きいのが耐久性です。
革といっても何でも同じではありません。コシのない革や、鋸ケースには向かない革でつくれば、使っているうちにケースがへなへなになってしまうことも考えられます。
でも、それ以上に気になっていたのが、鋸刃による摩耗でした。剪定鋸は、ケースから抜くときもしまうときも、どうしても刃がケースの内側に触れます。そんなことを何度も繰り返していたら、革なんてすぐに削れてしまうんじゃないか。
わたし自身、ずっとそう思っていました。
だから、革ケースをいろいろつくってきたにもかかわらず、一般的な剪定鋸を入れるサイズのケースだけは、なかなか純革製にする気になれなかったんです。
木製ケースを革で包む方法なら、鋸刃を受けるのは中の木です。実際、わたしの鋸ケースづくりも、アルスのウッディに付属していた木製ケースを革で包むところから始まりました。
これなら革は見た目や外側の補強を担当し、鋸刃そのものを受け止める必要はありません。
でも、純革製となれば話は別です。鋸刃を受けるところまで、全部革に任せることになります。
果たしてそれで、植木屋の仕事道具として本当に持つのか。そこが、どうしても引っかかっていました。
WiredSawで「純革でもいけるかもしれない」と思った
そんな純革製の鋸ケースに対する疑念が少し変わったのが、2021年につくった小型鋸「WiredSaw」でした。

実際に使ってみると、心配していたほど革がへたることもなく、鋸刃が当たる部分もすぐにダメになるようなことはありませんでした。
「純革でも、ちゃんと鋸ケースとして使えるんだな」
ここで初めて、そんな手応えを持つことができました。だったら、いつも仕事で使っている普通サイズの剪定鋸も、純革製のケースにできるんじゃないか。
そう考えるのは自然な流れです。ところが、実際にWoodyWaveをつくったのは2025年。WiredSawから4年も経っています。
革ケースづくりは仕事ではないですから、思いついたものを片っ端からすぐ形にしているわけではありません。本業もありますし、気が向かなければ何年でもそのままです(笑)
ただ、今振り返ってみると、それだけではなかった気もします。
WiredSawと普通の剪定鋸では使い方が違う
WiredSawは、小さな鋸が落ちないようワイヤーでつないで使うようにつくった道具です。
→ WiredSawの製作エピソードを見る
剪定作業中は鞘から抜いた鋸をそのまま外に出しておけるので、一度取り出してしまえば、ケースへの出し入れはそれほど多くありません。
ところが、普通の剪定鋸はそうはいきません。
枝を切るために鋸を抜く。
切り終わったらケースに戻す。
また必要になったら抜いて、使い終わったらしまう。
仕事中はこれを何度も何度も繰り返します。つまり、WiredSawと普通の剪定鋸では、鋸刃がケースの内側に触れる回数がまるで違うんです。WiredSawで純革製ケースが問題なく使えたからといって、それだけで「普通の剪定鋸も大丈夫」とは言い切れませんでした。
出し入れのたびに鋸刃が革に触れる。それを仕事のたびに繰り返したらどうなるのか。そこは、やっぱり未知数でした。
今になって考えると、WiredSawをつくってからWoodyWaveまで4年も間が空いたのは、どこかでその不安が払しょくできなかったからなのかもしれません。
それでも2025年。
ようやく「まあ、やってみるか」と腰を上げました。
15年使ってきた剪定鋸を、純革製ケースへ

WoodyWaveに収める鋸は、アルスのウッディという替刃式の剪定鋸です。いつから使い始めたのか正確には覚えていませんが、おそらく15年ほど使っています。革ケースづくりを始めた当時、たまたま使っていたのがこの鋸でした。
付属のケースも柄も比較的シンプルだったので、いろいろ手を加えやすく、気がつけばずっと使い続けています。
この鋸は、もともとの木製の柄も以前に革グリップへ変更しています。
今回は、その革グリップの形に鞘の口がぴったり合うように、ケースそのものも革だけでつくってみました。

ケース自体はかなりシンプルです。
250mmの鋸を収納する鞘の部分は、幅約60mm、長さ約260mm、厚み約12mmほど。
既製の木製鋸ケースと比べても、それほど大きくはありません。

グリップとケースには同じシニュー糸を使っています。
こうして鋸を収めてみると、グリップからケースまでつながった感じが出て、なかなかいいんじゃないでしょうか。

裏側のベルトループは、いつもの鋸ケースとは少し形を変えました。
普段はまっすぐに切るのですが、今回は正面から見たときのことも考えて、ロゴが入っている縫い付け部分の少し上を膨らませた形にしています。
大した違いではないんですが、こういうところを大真面目に考えるのが楽しいわけです(笑)
木・プラスチック・革、それぞれの鋸ケース
さて。
ここまで革、革、「うるせぇなぁ!」と感じたかもしれません。わたしも別に革が何でも一番優れていると言いたいわけではありません。
剪定鋸のケースは、以前は木製が多く、現在はプラスチック製がかなり増えています。木製ケースはシンプルで、わたしは個人的に好きです。ただ、構造的には割れることがありますし、形や機能の自由度にも限界があります。
一方、プラスチックは軽くて丈夫。雨にも強い。逆さにしても鋸が落ちない仕組みや、出し入れをスムーズにする構造などもつくりやすい。仕事道具として考えれば、非常に合理的です。
では革はどうなのか。まず、見た目はいいです。
趣があって、温かみがあって、使っていくほど表情も変わる。
なんせ高そうに見えます(笑)
「結局、見てくれの良さ一点突破か?」
と思われそうですが、そうでもありません。
木製ケースと違って、革そのものがパキッと割れて使えなくなるということはまずありません。誤って落とした時の衝撃にも比較的強い。
一方で、プラスチックと比べれば、重さや水への強さ、鋸刃が当たる部分の耐摩耗性では不利でしょう。雨の中で何も気にせず使えるプラスチックと同じ扱いはできません。
つまり、革が木やプラスチックの完全上位互換という話ではないんです。
木には木の良さがある。
プラスチックにはプラスチックの良さがある。
そのうえで、「純革製という第三の選択肢はどうだろう」というのがわたしの提案です。
WoodyWaveをつくったときに試したかったのは、結局そこでした。
1年間、仕事で使ってみた結果
さて。問題はここです。
純革でつくれることは分かりました。見た目も悪くありません。でも、本当に大事なのは、実戦で使い続けられるかどうかです。
WoodyWaveをつくってから、現在まで約1年。実際の剪定仕事で使い続けてきました。
鋸を抜く。
枝を切る。
ケースへ戻す。
また抜く。
またしまう。
製作前にいちばん心配していたことを、この1年間ずっと繰り返してきたわけです。
で、どうなったのか。
今のところ、いたって良好です。心配していたほどケースがへたることもなく、鋸刃が当たる部分も、今のところ実用上問題になるような摩耗はそれほどありません。むしろ木製のケースより良好です。
使い心地についても、不満らしい不満は出ていません。もちろん、まだ1年です。これから3年、5年と使えば、また違う問題が出てくるかもしれません。
そのときはそのときで、
「やっぱりダメでした(笑)」
という記事を書くことになるでしょう。
それも含めて、仕事道具を自分でつくって使う面白さだと思っています。
純革製の剪定鋸ケースは、ちゃんと使えた

約1年間、実際の剪定仕事で使ってきた現時点での答えは、
「普通の剪定鋸を、純革のケースで仕事に使う」
という選択肢は、ちゃんと成立するらしい。ということです。
もちろん、木やプラスチックより何もかも優れているわけではありません。雨には気を使うし、手間もかかるし、売り物にすれば安くつくれるものでもないでしょう。
それでも、長いこと純革製の剪定鋸ケースに疑問を持っていた自分としては、実際につくって、仕事で使って、「これならいける」と分かっただけでもWoodyWaveをつくった意味は十分にありました。
見た目も好きですしね。
結局そこかよ、と言われそうですが(笑)
でもまあ、手入れ作業の時は毎日のように腰に下げる仕事道具なんですから、丈夫で使いやすいだけじゃなく、見た目が気に入っているものが一番いいんじゃないでしょうか。
WoodyWaveをつくったあと、今度はこれとはまったく逆の方向へ振った純革製の鋸ケースもつくってみました。
WoodyWaveを含め、これまでにつくってきた剪定鋸ケースの流れは、「鋸と革ケース」でまとめています。
