2015年、知り合いの植木屋さんから依頼されていた、仕事で使う革ケースを完成させてお渡ししました。
木鋏ケース、剪定鋏ケース、剪定鋸ケース。最初から、この3つをセットでつくってほしいという依頼です。きっかけは、以前わたしがほかの人につくった革ケースを彼が見たことだったと思います。
本人としても、せっかくオーダーするなら、市販品とは少し違うものが欲しかったのだと思います。
「だったら、自分の使っている道具に合わせた革ケースを3つ揃えてつくってほしい」
そんな感じだったと思います。ただし、頼まれてすぐにつくったわけではありません。
完成まで、たしか1年くらいお待たせしました(笑)。
色々忙しかったというのもありますし、剪定鋏ケースは少し設計を調整する必要もありました。
まあ、いろいろ理由はありますが……。要するに、どんどん先延ばしにしていました。暇ができたところで、ようやく重い腰を上げて製作開始です。
剪定仕事で使う3つの道具を革ケースで揃える
今回つくった革ケースは、次の3点です。
・木鋏ケース Diagonal R/k
・剪定鋏ケース
・剪定鋸ケース Classic SN/n
木鋏、剪定鋏、剪定鋸の3つは、少なくともわたしの周りでは、剪定仕事でよく見かける組み合わせです。
細い枝や細かなところでは木鋏。もう少し太い枝や、切り終わった剪定枝を細かくするときなどには剪定鋏。鋏では切れない太さになれば剪定鋸。
大ざっぱにいえば、そんなふうに使い分けています。ただし、これは地域や職人によっても違います。
木鋏をまったく使わない人もいますし、わたし自身、見習いだった時には剪定鋏の使用を禁止され、木鋏と鋸だけで仕事をしていた時期もあります。このあたりを語り始めると長くなりそうなので、その話はいずれ別の記事で。
ともかく、今回依頼されたのがこの3つでした。飾りとして揃えたわけではなく、どれも剪定仕事で使う道具のための革ケースです。
3つとも同じようにつくったわけではありません
3点セットとはいっても、この3つをすべてゼロから設計したわけではありません。それぞれ、それまでにつくってきたものをベースにしながら、依頼者が実際に使っている道具に合わせています。
まず木鋏ケースは、すでに完成していたDiagonal R/kです。形を新しく設計し直したわけではなく、本人が使っていた木鋏を実際にケースへ入れて、きちんと収まることを確認しました。
次に剪定鋏ケース。こちらは、以前ほかの人から頼まれてつくったオーダー品の設計図が残っていたので、それをベースにしています。
ただ、剪定鋏というのは木鋏以上に製品によって形が違います。同じ「剪定鋏」でも、ある鋏にぴったり合わせてケースをつくると、別の剪定鋏では具合よく収まらないということも珍しくありません。
そこで本人の剪定鋏を借りて、その鋏のサイズや形を見ながら、きれいに収まるように設計をすり合わせました。残念ながら、この元になった以前のオーダー品の完成写真は残っていません。
レザークラフトを始めたばかりの頃は、今のように「つくったものは写真に残しておこう」という感覚があまりなかったんですよね。革ケースをつくるたびに、写真を残してブログで紹介するような習慣もまだありませんでしたし。今となっては、撮っておけばよかったと少し後悔しています。
最後が剪定鋸ケースの Classic SN/n。こちらも基本的な形はすでにできていました。依頼者が使っていた鋸の刃長が270mmだったので、その長さが入るようケースを少し延長しています。剪定鋏ほど製品ごとの形状差が大きくないので、こちらは刃長270mmに合わせてケースの長さを調整したという感じです。
2015年の革ケースは「形そのもの」で勝負していた
わたしが革ケースを本格的につくり始めたのは2013年頃です。このセットをつくったのは2015年。まだ革ケースづくりを始めて、それほど長い時間が経っていない頃でした。
この頃のわたしは、革ケースのデザインについて、
「無駄をそぎ落としたシンプルなものが美しい」
と、かなり強く考えていました。
中でも大切にしていたのが、シルエットの造形美です。余計な飾りは一切つけない。縫い目も極力必要最低限にする。
何か装飾を加えて格好よくするのではなく、ケースそのものの形だけで美しく見せたい。
そういうものをつくろうとしていました。
木鋏ケースの Diagonal R/k は、この頃のわたしにとって特に意味のある一作です。
「丈夫で、使いやすく、美しいものをつくりたい」
その考えを形にするために試作を繰り返し、自分なりに初めて納得できたのがDiagonal R/kでした。ただ、その考え方はDiagonal R/kだけに限ったものではありません。その後につくった革ケースにも、同じ美意識は自然と反映されています。
今回の3点も、最初から
「セットだから3つとも似た形にしよう」
と考えてデザインしたわけではありません。
それぞれ別々に成立していた革ケースです。
でも、同じ時期に、同じ人間が、同じ考え方でつくっている。そうすれば、結果として似た雰囲気のものになるのは当然なのかもしれません。今改めて3つを並べてみると、かなり統一感があります。
それはセットらしく見せるために意図的に形を揃えたからではなく、この頃のわたしが「こういう革ケースが美しい」と考えていたものが、3つとも同じだったからなのだと思います。
赤い糸と赤いコバは依頼者からのリクエスト
そんなシンプルな3つの革ケースに、ひとつだけ明確な共通の意匠を加えました。
赤です。
縫い糸を赤にして、コバ(革の切り口)にも赤を入れています。
これはわたしの提案ではなく、依頼者の希望でした。せっかくオーダーで革ケースをつくるのなら、少しくらい目立つものにしたかったのでしょう。
ところが当時のわたしは、
「ちょっと派手すぎないか?」
と思っていました(笑)。
わたし自身が、できるだけ余計なものを加えたくない時期でしたからね。それでも本人の希望なので、3つとも赤を入れてつくりました。
今見ると、これはこれで悪くありません。というより、かなりいいアクセントになっていると思います。ケースそのものの形がシンプルなので、赤い糸やコバを入れても、装飾過多には見えません。
しかも3つに同じ赤が入ることで、それぞれ別々に生まれたケースを一つのセットとして視覚的につないでくれています。
形の統一感は、同じ設計理念から自然に生まれたもの。
色の統一感は、依頼者の希望から生まれたもの。
結果として、この2015年の3点セットらしい姿になりました。

初めて3つ揃った革ケースセット
実はこの頃まで、わたし自身が使う革ケースを、統一感のあるセットとしてつくったことはありませんでした。自分用は試作品だらけです。
つくった時期も違う。形も違う。色も違う。中には失敗作やボツになったものまで混じっています。
自分で仕事に使う分には、それで問題ありません。わざわざ自分のために、全部を同じ雰囲気でつくり直そうなんてこともしませんでした。
だから、この3つが完成して並んだときは、
「おお、ちゃんと一式になった」
という感じで、単純にうれしかったのを覚えています。
それで依頼者へ渡す前に、3つ並べて記念写真を撮りました。

今では革ケースをつくれば、ブログに載せることも考えて写真を撮るのが当たり前になっています。でも、この頃はまだそんな習慣もありません。
この写真が残っているのは、ブログの記事にするためでも、後世の資料として残そうと思ったからでもありません。
3つ揃った姿がうれしくて、ただ記念に撮ったものです。
約1年も待たせてしまいましたが(笑)、完成したケースを渡したときは、本人もとても喜んでくれました。
「せっかくこんなのつけてるのに誰も何も言わないんだよね~」
ところが、その後です。
本人からこんなことを聞きました。
「せっかくこんなのつけてるのに誰も何も言わないんだよね~」
どうやら少し不満らしい(笑)。
せっかく市販品とは違う革ケースをオーダーした。赤まで入れて、ちょっと目立つようにもした。
本人としては、仕事中に誰かから、
「その革ケース、何?」
とか、
「どこで買ったの?」
くらい言われると思っていたのでしょう。
ところが、ことごとくスルー。
お客さんから何か言われることもなければ、同業者と一緒に仕事をしていても、誰も触れてこない。
当時のわたしも、
「これだけ普通の革ケースと違うのに、本当に誰も気づかないのか?」
と少し不思議に思いました。
一応付け加えておくと、この人が話しかけづらいタイプだったわけではありません。
むしろ気さくで話しやすい人です。
だから余計に、
「せっかくつくってもらったのに、誰も何も言ってくれない」
というのが少し残念だったのでしょう。
でも今なら、よくわかります
あれから10年以上。
わたし自身もずっとオリジナルの革ケースを腰につけて仕事をしてきました。その結果、ひとつ分かったことがあります。
人って、思っているほど他人のことを細かく見ていません(笑)。
革ケースについて聞いてくる人がまったくいないわけではありません。
同業者の中でこういうものに興味がある人が、ときどき、
「それ、自分でつくったんですか?」
などと聞いてくることはあります。
でも、その程度です。
お客さんをはじめ、一般の人から革ケースについて何か言われたことは、わたしの記憶では一度もありません。
つくっている本人からすると、一つ一つに思い入れがあります。形を考えて、型紙をつくって、革を切って、縫って。
「今回はここをこうした」とか、
「この形がきれいなんだよな」
なんて勝手に思っています。
でも、そんなものに興味のない人からすれば、そもそも目に入っていないのでしょう。
以前のわたしには、気づいてもらえたらうれしいという感覚もありました。今はもう、そこについて何か特別な感情が湧くこともありません。
他人は案外、自分以外の人間の細かいところまで見ていないということも分かってきました。誰かに見てもらうためにつくっているわけでもありませんしね。
結局のところ、
これは完全にわたしの道楽です(笑)。
2015年のセットは、あとからつくった「セット」と少し違う
このブログでは、その後 2019年、2025年にも剪定革ケースセットを紹介しています。
→ 剪定道具の革ケースセット2025|2015年から10年、使いながら変わった腰道具
ただ、2015年のセットは、その2つとは少し性格が違います。
2015年は最初から、
「この3点をセットでつくってほしい」
という依頼を受けて、同じ時期にまとめてつくったものです。
一方、2019年と2025年は、それぞれ単体でつくった自分用の革ケースを、その時点の腰道具として並べたものです。最初から一つのセットにしようとしてつくったわけではありません。いわば、その時々につくってきた革ケースの寄せ集めです。
もちろん現在も、ケース単体のシルエットの美しさは大切にしています。ただ、昔に比べれば構造も表現も増えましたし、少し「遊び」を入れるようにもなりました。
そういう意味では、セット全体の統一感だけを見ると、この2015年の3点セットが一番強いのかもしれません。この頃のわたしが考えていた革ケースの姿が、3つともかなり純粋に表れているからでしょう。
今見ると、2015年のわたしがどんな革ケースを美しいと思っていたのか、よくわかるセットです。
そして、この革ケースには続きがあります
こうして約1年も待たせてようやく完成し、本人にも喜んでもらえた革ケースセット。最初の頃は、ずいぶん大切に使ってくれていたようです。
わたしとしても、
「高かったんだから、大事に使ってくれるだろう」
と思っていました。
この革ケースをいくらでつくったのか、そもそもオリジナルの革ケースはいくらくらいが妥当なのか。そのあたりについては、別の記事で詳しく書いています。
→ オリジナルの革ケースはいくらする?ハンドメイド革ケースの値段を考えてみる
ところが数年後。
久しぶりにこの革ケースセットを目にしたわたしは、
「えっ……?」
となります。
そこにあったのは、わたしの記憶にあるこの写真の革ケースとは、ずいぶん違う姿でした。
まあ、仕事道具ですからね。革ケースだって使えば汚れます。傷もつきます。
そんなことは分かっています。分かっているんですが……。
まさか、あんなことになるとは(笑)。
この革ケースセットがその後どうなったのかは、また別の記事で。
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