この革ケースは、知り合いの割と有名な植木屋さんに依頼されてつくったもので、以前にこの記事でも紹介した剪定用革ケース3点セットです。
⇒【剪定革ケース3点セット製作のエピソード】
今回は、「この革ケースはいくらが妥当か?」というところから、実際にいくらにしたのか?やその値段にまつわるあれこれを書いています。あなたなら、この革ケースをいくらなら買うでしょうか?
この革ケース3点でいくら?
例えば、冒頭の革ケース3点セットがお店に並んでいたとして、あなたはいくらなら買いますか?
「いや、いらねーし」とか言うのは、やめてくださいね。傷つくから。ここはひとつ買う前提でお願いします。
で、実際の話をしますと、これをつくるのにかかった手間賃+材料費の1/3くらいでお渡ししました。そんな風に言われても、この革ケース作成にどれくらい時間がかかるかわからないですよね。軽く説明しますと、オリジナルの革ケースをつくる時は、入れるもの(鋏など)の採寸からはじまって、デザイン作成、型紙作成、試作品の作成、で不具合があれば修正という手順を踏みます。
わたしの場合、大体のデザインが決まっていれば、半日くらいで型紙までできることもありますが、デザインから考え直す時は、1日かかることもありますし、最近では、早まるどころか逆に何日もかかることも。そこから実際の革ケース作成に入るわけですが、冒頭の3点セットに関しては、(すでにあったデザインの転用もあって)デザイン工程だけで1日くらい、作成に2日くらい要したと思います。少なく見積もって3日働いたら人件費だけでもいくらになりますか?
そんな感じでオーダーメイドで完全ハンドメイドのものというのは、知らない人からするとびっくりするような値段になるわけです。
値段設定に悩む
実は、この値段についてはちょっと悩みました。わたしとしては、商売でやってるわけでもないですし、数少ない交友関係の中で好きな植木屋さんだったので、タダであげてもよかったんですが、それだと、さすがにもらう方の立場からすると気をつかいますよね。なんかお返しとか考えさせるのも大変ですし。
「ただより高い物はない」という言葉がありますが、わたしはこの言葉が染みついている人間で、自分自身も軽々しくタダでもらわないようにしています。スーパーの試食なんかも買う覚悟なしに手を出すことは決してありません。まあ、物ぐさなのもあって、自分自身があとからお返しとか考えるのが面倒なのもあると思います。
親の心子知らず
それと、以前プライベートで付き合いのある人に革ケースをタダであげたこともありましたが、その時の経験から、「タダってよくないのかな?」と思うところもありました。というのも、その時あげた革ケースを後で見る機会があったのですが、なかなかの傷みようで、つくった方としては、ちょっと残念な気持ちになったことがあったからです。
本人に全然悪気がないことは何となくわかりました。それでも、自分が使っているものは短期間で大きく傷むことはないので、「何でそんなんなっちゃったの?」というのが正直な感想でした。でも、つくった方も対価をもらって仕事として割り切れば、多少の不実も仕方ないと思えるところがあると思うんです。
無料=価値がない or 無料=価値を考えない
やっぱり人って無料のものに価値を感じないところってあると思うんです。しかも、何の気なしに気軽にもらったものって、その大切さを考えることもしなかったりします。逆に、安くても自分で買った物は馬鹿みたいに大事に使うところがありますよね。さらに、ちょっと高いものを買った時なんかは、もったいなくてしばらく使えない、なんてことはありませんか?自腹を切るっていうのはそういうことですよね。
そんな風に考えて、市販の革ケースと比べたら高い値段、それでもこちらとしては割に合う仕事ではありませんが、その時はきちんとお金をもらうことにしたわけです。
そして、数年たった今、あの革ケースセットがどうなったか?
とても気になるところです。「人は自腹を切れば物を大事に扱う」というわたしの仮説は、果たして実証されるのか?
まさかの展開、予期しなかった説あらわる
この革ケースセットは、相場の数倍という一般的な革ケースに比べれば、とんでもなく高価な値段でした。これで、もし大事にしなかったら、よっぽどの資産家か宝くじ当たっちゃった人か、どっちかしかないですからねw
ところが、「絶対大事にしてくれるはず!」というわたしの思いとは裏腹に、予期しなかった理由で、この子たちは今かわいそうな状態になっています。
ぐぅ~(涙)よ、養生テープまでついてるじゃないか!(怒)
ど、どうやれば、こんなことになるんだい?
ねぇ、教えておくれよ。
植木屋なんかに革ケースはつくらない!
人間って慣れる動物ですよね。そして、なにより造園の現場は過酷です。
わたしはそのことをすっかり忘れていたんです。
聞くところによると、本人もはじめは大事に使っていたようです。なにせ、ここぞという仕事の時しかお目見えしない、幻の革ケースとして君臨していたようでした。
でも、時がたち、風に吹かれ、時がたち、雨に打たれ、そんなことを繰り返しているうちに、段々と幻のラスボス的存在だったことを忘れ、いつの間にか一兵卒にまで降格してしまったようなのです。
落ちぶれたものです。この子たちは今、ボロ雑巾のような無残な姿に。
「ああ、かわいそうに」
その時私は心に誓いました。
「もう二度と植木屋に革ケースはつくらない、つくってやるもんか」と、、、。
、、、それから半年
半年前、「もう二度と植木屋に革ケースはつくらない」と誓ったわたしですが、ふと最近あることに気づきました。そして、わたしは間違っていたのかもしれないと思い始めています。
「悪かったのはわたしの方なのでは?」と。打ち明けますが、わたしは革職人ではありませんでした。
「そうです、わたしは植木屋さんです」
すっかりそのことを忘れていました。
そういうわけで、造園の過酷な現場を知っている身として、今後ゴリゴリ耐久性のあるものもつくってみたいと思いますwww